CuraanaNow
固まった毛の中に埋もれて布地と金具が見える。
どうやらこの子は飼い猫のようだった。
「猫飼ってる人なんかいるんだ…
『メインボード』……『ナツ・コート』?」
こめかみを摩る。
一先ずは、この子を助けてあげよう。
女はブラックボードの自分の部屋に戻っていった。
in:ブラックボード
「あらあら…ねこさん?どうしてこんなところに?」
まだ外も寒いのに。
指先を伸ばせば猫の身体は竦んでしまったが、逃げる体力はないのか、あっさり手の中に納まった。
半ば引きずりだして抱き上げる。
「死んじゃいますよ、こんなところにいたら…… おや」
▼
in:ブラックボード
「あらあら…ねこさん?どうしてこんなところに?」
まだ外も寒いのに。
指先を伸ばせば猫の身体は竦んでしまったが、逃げる体力はないのか、あっさり手の中に納まった。
半ば引きずりだして抱き上げる。
「死んじゃいますよ、こんなところにいたら…… おや」
▼
in:ブラックボード
「あらあら…ねこさん?どうしてこんなところに?」
まだ外も寒いのに。
冷えて赤くなった指先を伸ばしてみようとしたら猫の身体はすくんでしまう。おびえてるのか、抱き寄せる事はできなさそう。
女はこまった顔をした。
無理にすくいだす必要はないか
助けたところで、自分の生活にも苦労してるくらいなのに
「……。」▼
in:ブラックボード
使われてない排気口からにゃぁと声がする。
しゃがれてて、か細くて、雑音に混じって消えてしまいそうな声。
「…?」
整備の手を止め目を凝らしてみたら
真っ暗の中に泥だらけの痩せた猫が見えた。▼
in:ブラックボード
「にゃーん……」
義肢をつけた三毛猫がいた。
騒がしい通りに怯えたように影に引っ込んで
そのうちどこかのパイプへと潜り込んでいった。
おうちにはまだ帰れない。
in:娯楽区画
――――〆
in:研究区画
「まあいい。
契約書は、次の君に書いてもらう事にしよう」
それでやくそくごとは、成立だ。
男の手が子供に伸びる。
「協力、感謝する。」
in:研究区画
「ああ、では資料に目を通しておいて貰えるかな
それと、契約書を書いてもらわねばね。
あくまで仕事としてお願いするわけだから……」
出入りをするなら、専用のカードも発行しないとな。
隅まで文字の詰まった紙束を差し出し、今後の事を考える。
静かになった部屋の中で、紙をめくる音は、すぐに止まった。
赤い目が子供へ向いた。
「―――…そうか。いけないな
どうしてもスラムの頃の君の印象が強くてね、忘れ勝ちだ」
「君はもう、言葉をうのみにするばかりの、無知な子供ではないのだね」
戯れが過ぎたな、と男が呟いた。▼
in:研究区画
子供ながら、真剣な様子に訴える。
よくまあ探索者を続けながら、まともな情緒に育ったものだ。
同じ色の、暗い赤が視線を返す。
「ここまで金も人も少なからず動いた。
成果を出さないまま、プロジェクトを打ち切り――
なんてことは出来ないんだよ。」
わかるね、と淡々と問いかければ囀る口が黙り込む。
立ち上がった男が、とある紙束を取り出した。
「……彼女の研究には次の企画を用意している。」
「彼女たちの傍にいる君が手伝ってくれたら、とても都合がよさそうだ。
どうだろう。
君がささやかな協力をしてくれるなら、要求も此方で飲もう」
男の一言に零れる子供の笑顔。
色味のない部屋に花でも咲いたようだ。▼
in:研究区画
(ソロール)
「よく来たね。
掛けなさい、珈琲でも淹れよう
……いや、君はミルクの方がいいかな?」
研究区画のとある研究所の、そのまた一室。
頷く客人へそっけない視線を返して、男はミルクを注いだ。
まだ寒い時期だ。あたたかい方がいいだろう
レンジにミルクをかけている間、持て余した口を開く。
「以前話した君の研究成果だが――ああ、感情抑制チップだったね
受信機といい義足といい、町工場の娘がよく技術を備えたものだ。
随分仕込まれたのだね、反キカイ組織に手を貸していたあの男……
……ああ、いいんだよ。」
咎めるつもりはない、と警戒を強める子供に乾いた手を振る。
丁度よく音を立てたレンジから、ミルクを差し出した。
「それで、君の目的は彼女の研究への言及だろう。」▼
in:研究区画
「ああ、知っている。ダイアフル
君も、君のお母さんのことも。その最期も」
あっさり吐かれた言葉に、感情がやっと滲んだ気がして
白く骨ばった手が子供にゆるりと伸びた。
「……迷子だったね、ワンダフル。
友達のところまで、送ってあげよう」
in:研究区画
このあと話し合いがあってね。そんな話をしたんだろう。
ざわつく違和感に笑顔を消して、今度こそまじまじと男の顔を見た。
細面で、目つきの悪い、赤い瞳の。
「……」
「…… あの、
どこかで会いました?」
in:研究区画
「とても興味があるよ。
ただ今は時間は割けないかな」
男はまるで身構える様子無く、
素直に触れさせた指先が落ちていく。
in:研究区画
「キカイさんも、つくるのも好きです!
考えるのは苦手ですけど…」
子供は赤い目をいっぱい輝かせた。
警戒心を解いたそぶりで、男との距離を無邪気に詰める。
「ねぇ、おじさんここの施設の方ですよね?
よかったらここの研究…あ、見せるのがだめだったら、ううん
わたしのチップ、見てくれませんか!」
まるで好奇心に突き動かされた聞き分けの良い子供。
どうだ、エデンでは貴重な研究者候補だ。
一瞬でも迷う価値を持たせればそれで。
さりげなく袖に指を伸ばして
――ちょっと嫌なにおいがした。
in:研究区画
「キカイさんも、つくるのも好きです!
考えるのは苦手ですけど…」
子供は赤い目をいっぱい輝かせた。
警戒心を解いたそぶりで、男との距離を無邪気に詰める。
「ねぇ、おじさんここの施設の方ですよね?
よかったらここの研究…あ、見せるのがだめだったら、ううん
わたしのチップ、見てくれませんか!」
まるで好奇心に突き動かされた聞き分けの良い子供。
どうだ、エデンでは貴重な研究者候補だ。
一瞬でも迷う価値を持たせればそれで。
さりげなく袖に指を伸ばして
――ちょっと嫌なにおいがした。
in:研究区画
「情報提供のため施設に出入りしている探索者はいくらでもいる、
いたからね。
君は研究者になりたいのかな。珍しい」
眠い目を瞬いて、やっぱりやる気の無さそうに呟いた。
in:研究区画
拍子抜けだ。
安堵した、というか『あてが外れた』様子でカードを後ろ手に隠す。
「あの、わたし、ここの施設見に来たんです!
わたしも趣味でチップとか義肢とか、つくってるんですけど
ここで働いてるお友達にチップのお話し聞いて!迷って…
ちゅーいさん?といっしょに来たんですけど……」
「捕まえなくていいの?」
ちらり、と顔色を窺うふりをして、首からぶら下がるホルダーを見た。
『ジョン』。似合わない名前が書いてある。
in:研究区画
「審査会はまだで、ここは拡張チップの研究施設だ。
なんの用事で来たのかな。
それとも、ここの関係者だったか」
ポケットにだらしなく手を入れたまま、
握られた偽造カードを一瞥する。
in:研究区画
「ぴゃっ…!
すいません、ごめんなさい
わたしまだ何も悪いことしてないで…っ!」
「……あれ?」
やる気のない男の声。
飛び上がってあからさまに狼狽して見れば、しわくちゃのワイシャツと白衣姿が目に入った。
▼
in:研究区画