CuraanaNow
「一人でこの辺りに来るのは久し振りかも〜」
年中ほとんど人混みが無くならないマーケット。
ふらふらとマイペースに歩いては、並ぶ商品を眺める。
「また花でも買えたらなー。
でも高いし増えすぎるとお世話が……」
独り言を零しながら、暫く通りを歩いていた。
in:マーケット
深夜、研究区画の一室から人影が出てくる。
数度辺りを見渡した後に端末を確認すると
人影はクラアナの方向に姿を消した。
数刻過ぎて夜明けも近くなった頃に戻って、再び部屋へ。
その後は音沙汰なく、
また日が昇り時間がただ過ぎていった。
in:研究区画
「……この辺に落としたと思ったんだけど。
もっと先かな…暗くて見にくい〜」
真っ黒なオイルまみれのナイフを拭いながら、
うろうろと同じ階層を回っている。
足元を注視し、時折屈んでは床の瓦礫を漁りつつ
進んでいるため歩みはゆっくりだ。
「普段やらないことをするものじゃないな…」
溜め息に愚痴を混ぜ零し、もう暫くは探索を続けるのだろう。
in:クラアナ内部
「………また服汚れちゃったぁ…」
湿った足音を鳴らしている探索者。
靴底が地面と触れて離れる毎に粘着質な黒い液体が音を立てる。
樹海に茂る植物の枝葉や蔦を切り捨てながら、
次の層の手前までは行ってしまおうと。
「ヤな空気だな、ここ。
………妙なものも見たし」
すん、と鼻を鳴らして。
時折、自分以外の探索者の気配を嗅ぎ取る。
衣服についた黒泥がぼたぼた、その場に垂れて。
黒い足跡を残しながら昇降機までの道を暫く歩いた。
拾った何かは、そのままポケットに入れられた。
in:クラアナ内部
「……なんでここに来たんだっけ?」
意味もなく足が向いた理由に自分でも思い至らず。
掲載された名前を視線でなぞってもそれは変わらない。
「変だなあ……」
奇妙な違和感だけを抱えて、通りの方へ戻っていった。
in:死亡者掲載所
「今日の固形食はー……」
日替わりのフレーバーを眺めながら、
どれにしようかなと選んでいた。
in:食料提供所
「………」
ぼうっと長椅子に腰掛けて、
祈る所作をするでもなく、ただ黙して時間を過ごしている。
傍目には寝ているようにも見えた。
in:宗教施設
「〜♪」
こころなしか上機嫌にチョコレート味の固形食をかじっている。
in:食料提供所
「同じ世界から飛ばされてきた人がいれば、
どこかに施設でも建ってるかもよ」
可能性のひとつ、だけれど。
「シロンっていうんだねえ。
それくらい細やかな方が良いのかもね。
カミサマの加護っていうのは」
見守るくらいが丁度いいんだろう。
「私もそのシンボルマーク、もう一度探してみようかな。
泪ちゃんのお仲間さんがいるかもしれないし。
……ああ、そろそろ行かないと」
治安の悪い場所だから、小柄なあなたを長く引き留めているのも気が引けた。
断られなければ安全な上層まで一緒に歩いてから別れたし、その逆ならその場でお別れしただろう。
どちらにせよ、「また話そうね」という言葉を添えて。
in:ブラックボード
「たまに話し相手になってくれれば、それで良いよ。
他にお願いが思いついたらその時に頼むから」
要求は細やかなもので。
物事に頓着しない様子が窺えた。
「私も宗教施設は前に行ってみたけど、
その首飾りと同じマークは見なかったかなあ。
ふーん……そういうものなんだ。
カミサマに期待しないっていうのは良いね。
世界が違うと宗教観ってやつも変わるのかな」
なんとなく、価値観は好みに合ったらしい。
in:ブラックボード
「そのうち判るかもね」
全ては巡り合わせ次第というもので。
きっと知らない間にすれ違ったり、
知らないまま言葉を交わしたりするんだろう。
「生身はできるだけ大事にした方がいいよ〜。
護衛の真似事くらいはできるから、
困ったら呼んでほしいな」
頭の片隅にでも覚えていてくれれば、と。
「カミサマねー……世界が違うなら文化も違うもんね。
泪ちゃんはその宗教の信徒なんだ?」
in:ブラックボード
「それは秘密」
内緒だよ、と口元に指を立てた。
案外秘密主義らしい。
「友達ならいくらでも。
此方こそよろしくね。
探索とかもー……まあ、たまーになら手伝えるかな。
生身の子よりは頑丈だし、友達のよしみでね」
「異世界の人って言ってたけど、
それは泪ちゃんの世界と関係あるの?」
首飾りを指して尋ねる。
in:ブラックボード
小さい方がいいと聞けば、違いないとくすくす笑う。
可愛らしい見目は人の油断を誘うものだ。
「まあね。大事なもの、できたから」
右手の親指。
そこだけ赤く染めた爪を撫でる。
「ふーん。
私も来たばかりのときは大変だったからな〜。
何か助けになれることがあれば手伝うよ」
道案内だとか、話し相手。
この世界にとっての余所者同士。
手が届く程度の助けなら、喜んでするだろう。
あなたの首から提げられたものにも、
少なからずの興味があったから。
その内尋ねる機会が来るかな、なんて思った。
in:ブラックボード
「あは。煙草は背が伸びなくなるよ〜」
冗談ぽくそんなことを。
他にも娯楽はあるだろうけれど。
「生存価値分のシザイを
稼ぐのには困らない程度、かな。ありがとね」
自分よりは強そう、への返答。
ただ輝くだけのドッグタグを揺らしながら。
「記憶は案外気楽に探してるよ。
最近は別に戻らなくてもいいかなーって思えてるし。
クラアナに潜るとたまーに思い出すから、そうしてる」
「ここの生活はそれなりに長いかな。
泪ちゃんは来たばかり?」
異世界人の自分から見ても、
この世界の知識についてあまり知らない印象を受けた。
in:ブラックボード
「娯楽は生存価値が下がるらしいよ〜?」
娯楽区画やアンダーボードで嗜めるものはその代表、らしい。
「強いかなあ……まあ、それなりにはね。
異世界仲間なんだ?仲良くできそうかも」
名前は、と聞かれれば細めた瞳が考えるように彷徨って。
「んー……忘れちゃったんだよね〜。
こっちではネムって名乗ってるから、
あなたもそう呼んでくれていいよ」
転移してきたときの事故で記憶が飛んでいるのだとか。
自己紹介の流れで、あなたの名前も聞いてみただろう。
in:ブラックボード
「生存価値も下がってくからねー。
気をつけないと」
ごめんね、と添えながら
煙草はジャケットの内側へと仕舞われた。
「軍人さんだよ〜。
異世界から来たし、元って言った方が良いのかな」
指先で紐を持ち上げてよく見えるようにした。
きらりと光るそれには、
名前も何も刻まれていない。
in:ブラックボード
「うん?」
少し低い位置から声がかかれば、そちらに視線を向ける。
動きに合わせてもう一度、箱から軽い音がした。
「禁煙しようかな〜とは思ってたけど……
小さい子にあげるのはちょっとなー」
こんな場所でそんなことを気にする方が
そぐわないのだろうけれど。
悩むように首を傾げると、提げたドッグタグも同じように揺れた。
へらりとした笑みを浮かべつつも、
快く分ける雰囲気ではないのが伝わるだろう。
あなたが成人であることが判れば、また別かもしれない。
in:ブラックボード
入り組んだ路地から、探索者らしき人間がふらりと足音もなく出てくる。
適当な場所で立ち止まり、
「……やっぱ禁煙しようかなー」
空になりかけの紙製の箱をつまんで振る。
かこん、とせいぜい残り数本という音がした。
in:ブラックボード
「この辺り、工房の近くは通ったけど
最近歩いてなかったな〜」
探索者以外も見かける賑やかな通りを
ぶらぶらと散歩がてら歩いていた。
in:メインボード
「検査って毎回憂鬱〜……」
研究区画の一室に向かって、靴音が響く。
規則正しい間隔が与える几帳面な印象とは対照的に、零れる声音は呑気なものだった。
in:研究区画