CuraanaNow
男は構えていた武器を降ろすと、
迷わずズボンの隠しに入っていた飴玉の包みを破り取り、
それを口の中へと押し込んだ。
「はぁ……、あぁ……」
頭が痛い。
視界が揺れる。
渦を巻く血だまりの向こうに、
マインの持っていたような端末の並んだ、無機質な部屋が──
男はそれらを追い出すように頭を振った。
そして千切れた足先を固く縛ると、
地上へのエレベーターの方へと歩いて行った……。
in:クラアナ内部
あるべき場所から、
古い布を千切るような、深いな音が響く。
「ぁ……、ぐ……っ」
足から駆けあがった痛みが脳を灼く。
しかし、
焦点の合わない視界は辛うじて今度こそ機能停止するキカイを捉え。
in:クラアナ内部
だから、最後に倒したと思っていたキカイが、
まだ動いている事に気付かなかった。
「え……?」
降り下ろされたムキムキの腕は、
男の足元を砕く。
もんどりうって倒れ、
立ち上がろうと摺る足の──
in:クラアナ内部
──10階層。
ほとんどのキカイは一撃で片が付く。
それは、戦闘と言うより、
作業のような工程で。
(そろそろ戻った方が良いだろうか……)
in:クラアナ内部
「や、話の邪魔をしたらいけないと思って……(小声)」
男は大人しくうりうりされていたが、
移動となれば大人しくついて行くだろう。
in:宗教施設
「はい(払う)
心臓がそんなに危険な臓器だったなんて知らなかった……」
男はポエムに目を通しつつ二者の話を聞いている。
in:宗教施設
「一つください」
話の間にいつの間にか現れてポエムをパラパラとめくる
呼び出された人2号。
in:宗教施設
「みんな知ってるくらい有名なんだなぁ」
いと感心ボーイ。
in:食料提供所
「そんなに」
男はあなたと自分の手の中の飴を首っ引きしつつ
頻りに感心した様子で頷いた。
それから立ち上がったあなたを見て。
「うん、
さっきは白いのをありがとう。
それじゃあ、また」
揺れるマントを見ながら小さく手を振った。
in:食料提供所
「そんなに」
男はあなたと自分の手の中の飴を首っ引きしつつ
頻りに感心した様子で頷いた。
それからあなたが踵を返せば。
「うん、
さっきは白いのをありがとう。
それじゃあ、また」
小さく手を振りながらマントに包まれた背中を見ていた。
in:食料提供所
「つまり、さっきの魚肉と白いのの間に
この飴を入れれば……」
やめろ。
「そんなにすごいんだ。
言い付けは言い付けだけれど、
使う事自体はちょっと楽しみになってきたかも知れない」
in:食料提供所
「そうだったのか」
男は自分の隠しから出した、
あなたの持つそれと同じ飴を見比べ、
大きく頷いた。
「ラクトが言うような目には遭わなかったから
そのままだけれど、
もし使う事があったら
あなたに同じかどうか伝えようと思う」
in:食料提供所
「……?
大丈夫?」
その気落ちした声に、白塗りの仮面を覗き込むも、
そこにあるのは陽気そうな笑顔ばかり。
続く問いに、男は少しの間逡巡して。
「肉を噛み締めるとうっすらな血の匂いと一緒に、
染み出た汁と脂が甘いような感じがして、
それが下のモチモチの酸っぱいような匂いと
合わさって良い気持ちになる。
これは……」
かくん、と首を捻り。
「これはおいしいと言うのだろうか」
in:食料提供所
あなたに向けてこくこくと頷いた。
「うん。
味がある」
役に立たないぞコイツ。
in:食料提供所
「そんな食べるのに都合の良い生き物居ることある??」
多分いっぱい捕獲されて居なくなってしまったんだろうと思う。
いつか見た探索者はその生き残りに違いない。
「うん、分かった。
味が分からないで研究するのはきっと大変だ」
そう呟いて男は寿司を自分の口へと運び。
(続)
in:食料提供所
「寿司……。
食べ物なんだ……。
頭に乗ってたのを見たから
てっきり頭部なのかと思ってた……」
すっかり寿司らしくなったそれを
四方八方から興味深げに眺め、
『探究』の二字を聞いて振り返った。
己の手の中にあるものとあなたを
二三度首っ引きした後。
「モンの民……。
俺はトルトー。
もしあなたに必要なら、あげる」
in:食料提供所
「これは……すごく、見覚えがある……」
具体的には探索者審査場で。
「これは……、
あなたは一体……?」
in:食料提供所
「まさか……そんな食べ方が……」
息を飲んだ男は、
しかし、真剣な表情でその魚肉を銀粒の上に
そっと寝かせてみる。
in:食料提供所
合成魚肉
旧世界に居たサカナを再現して作られた食べ物、サカナがどういう生き物なのか。その姿を知らないニンゲンも増えつつある。
「…………?」
思わず掴んだ後に食べ方が分からないと気付いた者。
in:食料提供所
*もぐ……*
「うん」
このわざとらしいメロン味!
in:食料提供所
| 名称:トルトー(所有者による変更を受け入れず)
経年数:培養槽を出てから3年
製品名:高負荷労働用デザイナーベビー HL-296163208
製造元:機械培養実験施設『肉の洞』
性能評価:
・意思疎通、理解:可 ・命令遂行能力:可 ・単純労働:優 ・高負荷労働:優 ・頭脳労働:不可
備考:
・服薬による薬物去勢継続中(投薬を中断しないで下さい) ・訓練中の脱走歴有り(再教育後の再評価では出荷レベルと判断) ・上記の脱走の影響により、名称変更不可 |
日記 二:
滑り落ちるという形にはなったけれど、
ようやく4層まで潜る事が出来た。
相変わらずハサミのキカイは手強くて、
いまだに手足が飛んでいないのが奇跡みたいに思える。
俺には、やっぱりクラアナに潜るくらいしか出来そうもないから、
身体を失うのは出来るだけ避けないといけない。
それから、命の危険は何もクラアナだけに留まらない事を知った。
エデンボードで会った子供たちの眼には虫や草ばかり映って、
“人間”は映らなかったのかも知れない。
うずくまって彼らの眼を遠くに見た時、
俺が施設に連れ戻された時の事が、ふと、思い出された。
それが頭の隅にいつまでも残って、
ちりちりと痛むような気がした。
日記 一
初めて一人でクラアナに入った時、
入り口に居たハサミのキカイに半殺しにされた。
次に入った時も、やっぱりハサミのキカイに半殺しにされた。
三回目に入った時は、もう1層に居るキカイは
苦労せずに倒せるようになっていた。
俺は人より頑丈に造られてると聞いた。
けれど、ここでは身体に価値なんて無いのだと知った。
半殺しにされたはずの傷はほんの少しのキザイで治り、
千切れた身体もすぐに代わりを買う事が出来る……らしい。
ここで本当に大事なのは、
きっと、身体じゃなくて心の方なのだろう。
あの子がそう言ったように。
それなら、人より”自分”の薄い俺は、
一体この穴の何処まで行けるのだろうか……。