CuraanaNow
青髪の少年が、またショップで除染を行い、すぐにクラアナに入っていく。
数日前からずっとこの調子だ。
時には右肩をパックリと抉られた状態で戻ってきていたが、それもまたしばらくすれば模造生体義体で補ったようで。
恐怖の色も見せず、ただ真っ直ぐとクラアナの入り口に向かっていく。
in:クラアナ付近
肩から先のない少年が、ふらふらと温泉へ入ってくる。
胸元に寄り集まって胴体を形作る異形触手の数本を器用に使って湯を汲んでかけたり、布で体を擦ったり。
スムーズに身体を洗って湯に浸かった。
in:湯浴み所
「ワンダフルコート」
ぐいと近づいた距離に気圧されるように僅かに背を逸らす。
教えられた名前を復唱しているうちに、また触手が数本這い出て、連絡先の書かれたメモをポケットに仕舞っていく。
「私は実験体296号、個体群の俗称は“カイナ”。
ペアでの探索を承認し、同時にこちらからも申請する。
二人での探索は一人のそれより効率が良く、深くまで潜ることができる」
うむ、と頷き、いつかの探索の約束は結ばれた。
「では、私は探索に向かう。
より長い時間を探索に費やすことのできる日時が特定でき次第連絡する」
in:食料提供所
手が離れれば触手はしゅるしゅると戻り、服の隙間に収まっていく。
代わりに手元にずいと近づいた顔が、差し出された野菜シートをパクリと咥えて食んだ。
むしゃむしゃぱりぱりと噛み、飲み込んだのちにまた口を開く。
「個別に追加の代価等あれば接合部を見せることも構わない。
だが、この後は探索へ向かい、帰還次第そのまま就寝する予定があるので今から見せることはできない。
帰還、就寝、そして起床ののち、再び会うことがあればシザイまたは携帯食等の代価と共に私へ申請することをおすすめする」
長い。
つまりはまた今度他のものをくれたら見せても構わない、ということらしい。
in:食料提供所
自ら訊いたにもかかわらず、その返答を聞いているのだかいないのだか、そわそわと視線が揺れて眉根が寄る。
あなたの手が弄ぶ触手は少し強張り、逃げるようにそろそろと引っ込み始める。
「……返答の最中だが、義体をこれ以上触らぬよう要求する。
不快ではないが回避すべき感覚が私の集中力を欠くと判断した。
凡そ“擽ったい”と称するものだ。
キカイ義体の利点に関する解答は感謝する」
何かを我慢しているのか、拗ねたような表情でまた型式ばった言い回し。
要はくすぐったいのでやめろと言いたいらしい。
in:食料提供所
揉んだり、摘んだりとされる度に触手はピクピクと動いたり、ふるりと擽ったそうに震えたり。
それに合わせて少年の瞳も右へ行ったり左へ行ったり、少し揺れ、瞬いて。
しかし止めることはない。
「……、……キカイ義体は、硬いようだが。
扱いとメンテナンスが容易などの、利点があるのだろうか。
汚染進行が早まると説明を受けたのだが」
手袋越しの硬質なそれに気付いたのか、こちらも質問を。
in:食料提供所
揉んだり、摘んだりとされる度に触手はピクピクと動いたり、ふるりと擽ったそうに震えたり。
それに合わせて少年の瞳も右へ行ったり左へ行ったり、少し揺れ、瞬いて。
しかし止めることはない。
「……、……キカイ義体は、硬いようだが。
扱いとメンテナンスが容易などの、利点があるのだろうか。
汚染進行が早まると説明を受けたのだが」
手袋越しの硬質なそれに気付いたのか、こちらも質問を。
in:食料提供所
「意志を持つことも? ふむ……」
考え込む間にもゆるりと動くそれは、ともすればビニールでできているかのような光沢があり、しかしその青緑色は内側を透かすことはなく、中身までは見通せない。
「……損傷を加えるのでなければ、触っても構わない」
頷くと同時にその触手があなたの手のひらに乗せられる。
滑らかながらも触ると吸い付くような質感があり、握ってみれば中はどうやら固体が詰まっていて、柔らかいながらも形が大きく崩れるまでは指が沈まないことが分かるだろう。
あなたが観察している間、その観察の様子を少年はじっと見ている。
何も邪魔をすることはないが、触手はあなたの手が触れたり握ったりすれば時折ピクリと小さく揺れた。
in:食料提供所
「手からごはん」
その意味を考えるように復唱。
「手を使って、ではなく、手から直接?
この義体を手とした場合、……」
うにょにょ、と触手が動いて野菜シートに触れる。挟む。
つるりとしつつ、しかしものは滑らずにきちんと持てるようで。
「力の調整はできるようになった。野菜シートを掴むことに問題はない。
しかし……」
つるつる、さわさわ。
野菜シートの上をしばらく触手が蠢いていたが、その動きが止まって、シートをひとかけらちぎり取る。
「……経皮で直接摂取する機能は、ない。
これは独立した生物ではなく、私の器官の一部。
胴体を補い、そして先天的に欠損している腕の役割も果たす。
しばしば無意識的に動くこともあるが」
シートを持った数本の触手が少年の口元へ運ばれて、その唇の向こうに消える。
遅れてパリパリと、シートを噛む音。
触手が蠢くのに合わせて揺れる白衣の中、肩の先にあるはずの腕は見当たらない。
in:食料提供所
「義体を購入する際、湿潤でないものを選んだ。
液体が付着していると、目的とする活動に支障が生じるため。
“ねばねば”しているものもそれ相応の目的があると推測する」
ぐっぱと手を握って開くように、細い触手がぎゅっと集まってぱっと開く。
それらがやんわりと、差し出された野菜シートの方を向いて。
ぱち、ぱちと2回瞬きする間が空いた。
「……その食糧はこちらに進呈している?
何かの代価として?」
いやに堅苦しく型式ばった言い回しで、その意図を尋ねた。
in:食料提供所
探索者かという確認には頷くが、続く言葉には首を傾げて疑問を表す。
「これは胴体を補う異形生体義体。
それともこれにスライムという別名が?」
青緑色の、滑らかな表面を持つ触手がクエスチョンマークのように曲がる。
随分器用に操っているらしい。
in:食料提供所
「…………驚愕、または怯懦の反応と解釈。
私に危害を加える意思はない」
安全性を示すつもりか、胸から生える触手が手を形造り二本指を立てた。
ピースをしている。
in:食料提供所
胸から出てきた異形触手も栄養を得て元気になった。
in:食料提供所
錠剤型栄養食を購入し、少しの水と共に飲み下す。
ふう、と満足げな吐息を少し吐いた。
in:食料提供所
青い髪の少年が、袖のない白衣を揺らして死亡者掲載所を訪れる。
既に一見できる一覧の中にはない名前を端末に入力し、その遺言を確かめた。
「……遺言にフィードバックとの相違はなし。
“Lact”に関する情報もなし……」
軽く指を差しながら確認するように独りごちて、その場を後にした。
in:死亡者掲載所
ブオンッ!! ブオンッ!!
少年の右腕の異形義体が荒ぶっている。
これは少しのつもりで異形義体をレベルアップしてみたら力は強くなったがうまくいなせなくなった者の姿だ。
無表情で──見る人によっては呆然としているようにも見える顔で異形義体に振り回されている。
当たったら痛そうなので、近寄らない方がいいだろう。
in:メインボード
「…………」
汚れた白衣を着た少年が、通りの端に立って人の流れをじっと眺めている。
右肩の位置に大きな赤い滲み、頭部には変色した箇所もある。
一度汚染に深く蝕まれたことで、ようやく他者との協力を考え始めているようだ。
in:クラアナ付近
「────」
小柄な少年が白衣を血に染め、足を引き摺ってクラアナから帰還する。
どうやら初めての探索は敗走に終わったようだ。
in:クラアナ付近
白衣に似たマントを羽織った子供。
同種の別個体が幾つも存在し、生まれてはアナに投入されていく。
それゆえ同じ顔の者は近辺にも存在するだろう。
この個体群「カイナ」は両腕を先天的に欠損している。
現在の個体は、胴体を補う異形生体義体を腕の代替として用いている。
*かつての個体
267号