『あいつ、また失敗したのか』
『出戻りらしいじゃないか。
一度サビを抜かれた奴は、サビを入れ直しても『腰抜け』なんだなあ』
『おい、言い過ぎだぞ』
『おとなしくサーの集落で暮らしとけば良かったものを』
『あっちの待遇が悪かったんだっけ?』
『ひょっとして、スパイとかなんじゃ……』
『……一度、問いただしてみるか?』
『殺したって変わんねえだろ。
サーの民みてえなもんだし』
『気の毒な奴だ。どこにも居場所がないとは――』
File.7 泡沫
キカイに体を羽交い締めにされた。
尖った先端が左腕に食い込み、抉り落とされた。
胸と腹を乱暴に掴まれ、胴を手折られた。
奪われたものはクラアナの奥深く、もう戻ることはない。
やめろ。
やめてくれ。
これ以上、私の記憶を呼び覚ますのは。
『それでは手術を始める』
体を羽交い締めにされた。
尖った先端が――
『頭部を切開する』
そうだ、飴……ラクト様から受け取った、飴――
『おめでとう、手術は成功だ。あなたは今日から、サーの――』
File.6 一斉審査
探索者全員が集められ、審査が行われた。
思い出すだけで、全身のシャリが弥立つ。
少量だが、サビを奪われた。
私の、サビ、を。
……疑問だ。
あの青白く光る探索者が光線を発射した時、
なぜ私は仮面を跳ばしてしまったのか。
やはり審査以来、触手の制御がおかしいように思う。
キカイは、我々の力が強大すぎては困るのだろう。
サーの民がモンの民を疎んだように。
遠き日の声を忘れることはない。
『それでは手術を始める』
反吐が出る。
File.5 私の姿
私の姿は、やはりこの星の人類にとって恐ろしいものらしい。
怯えられ、逃げられ、危うく武器を向けられるところだった。
私の頭部は異世界の食品『寿司』と酷似し、胴体はヒトモドキに酷似しているという。
Lactという名の探索者に頼んで、姿を隠すための外套を手に入れた。
これで少しは馴染めればいいのだが……
File.4 汚染
日々クラアナに潜る。敵の弱点は見えた。
この身の鍛え方も心得た。
しかし、深く進むごとに滾る高揚だけは慣れることがない。
これは、キカイを汚染するウイルスの影響らしいが、
生身の人類であっても、危険なもののようだ。
除染の処置を行うたびに、生きた心地がしなくなる。
一瞬の気の緩みが命取りとなるだろう。
File.3 タコワサ
シザイが集まったことで、新しい義体を手に入れた。
キカイの身体よりも、だいぶ楽だ。
この義体を見ていると、昔匿ってくれたタコワサの民のことを思い出す。
馴染みが良いと感じるのは、そのためだろうか。
File.2 キカイの身体
キカイの力は凄まじい。探索者たちの悲鳴は絶えない。
モンの民としての戦の勘は、限られたシャリを削り落とさざるを得ないと判断させた。
……しかし、この身体は辛い。
何かに乗っ取られそうになる。
きっとこのままではこの先、生きていけないだろう……
File.1 モンの民
モンの民とは、スメシ星に住まう民族のひとつである。
私たちはかつてはサモの民と呼ばれていたが、
今ではサーの民とモンの民に分かれ、対立を繰り返している。
対立の原因は、生まれつき、頭部に「サビ」と呼ばれる緑色の器官を持つ者と、そうでない者がいたことだ。
我らがまだサモの民と呼ばれた頃、強いサビありは戦で活躍し、サビ抜きは落ちこぼれとされた。
サビを持つ者は運動能力に長けて気性が荒く、サビを持たない者は非力で温厚だったのだ。
しかし、時代が進むことで立場は逆転。
スメシ星全体が平和になったことで、サビありは乱暴者扱いされ、嫌われ始めた。
ついには、サビを持って生まれた子に手術を施し、サビを抜く親も現れた。
数を減らしつつも、サビありの者たちは抵抗を続ける。
それが我ら、モンの民。
……しかし私は、我々サビありが戦を重ね、勝ち取ったはずの平和が、
このような形で乱されるのが耐え難かった。
腰抜けと言われながらも、私は仲間たちを見捨て、スメシ星を脱出した……
そして漂流したのが、こんな人を人とも思わぬ土地だ。
きっと、裏切り者の私への天罰なのだろう。
私は漂流の道中、異界の言葉を知った。
このような有様を、「身から出たサビ」と言うらしい。