CuraanaNow
「……まっ、いいかぁ~」
気紛れを起こす時というのは、自分でもわからないもの。
そう納得して、それ以上は気にしない事にした──。
in:死亡者掲載所
「……あら?」
ひらりと、端の破れた紙が1枚、足元に舞って来る。
誰かに棄てられたものであろう、それ。
放っておいても清掃キカイに片されるであろうもの。
「も~、誰ですかぁ散らかして…………」
元々は綴じてあったのだろう。通し穴を見て。
拾い上げて、描かれているのはこどもが描いたような絵。
さて丸めて捨ててしまおうかと思いながら。
そっと折り畳んで、それを懐に収めていた。
「──あれ?」
理由は、良くわからない。
in:死亡者掲載所
「そうですねぇ、諸行無常ですぅ。改めましてぇ、
ええ~、シーでもムーンでも何でもどうぞぉ~。
またお仕事、お手伝いしてくれると嬉しいですぅ」
お互いの認識を改め直し、あらたな縁が生まれる。
つまるところ探索者としての、儚い協力関係程度の、縁。
どちらか、あるいはお互いがまた、ここに名を刻むまで。
あるいは、用済みとなるまで。
in:死亡者掲載所
「なぁんだ、それならお揃いですねぇ。
ほら、私もココにぃ~。
死んでるのに生きてるって、ヘンなの。笑えるぅ」
それから少し後の行が指差される。
『C-Moon』と確かに、小さく記載がある。
「……えへ~。っていうかですねぇ。
多分前世ちゃんのお知り合いさん?です?
その辺、ど~も引き継がれてなくってぇ。クゥリエ、さん?」
よろしく~、等と初対面めいた挨拶を口にしつつ、
首を傾げた。
in:死亡者掲載所
「ええ~。何だかこれを見ていると、落ち着くんですぅ」
指差し確認して、誰ともわからない名前を追いながら。
くるりと声の方へ振り返る。
「なにかいい事あったのかい?ですかぁ!
えへへ~、なぁんにもありませんねぇ!
そういうあなたは、どうですかぁ?」
in:死亡者掲載所
「……ええ~?人違いですぅ?ホント?
って、あ~。行っちゃったぁ」
ま、いっかあ。と一人呟き。
再び死亡者リストへと目線を戻すのだった。
in:死亡者掲載所
「わあっ!ハローハロー!お久しぶりですぅ!
ええ〜〜っとぉ〜〜〜」
びゅんびゅんと身体の前で手振り身振り。
あっちへいってこっちへ戻って、ぐるぐる〜。
着陸。出てきた答えは……。
「……えへへ〜。どちらさまでしたっけぇ。
あ、前世ちゃんの方で会ったことあるのかな!
シーになにか御用ですかぁ〜?」
in:死亡者掲載所
「ふん、ふふ~ん♪」
キュィ キュイ。妙な音を鳴らしながら、上機嫌で死亡者のリストを眺めている。
in:死亡者掲載所
「……ええ、幸福な結末を迎えられるように。
こちらは、楽しみに待っていますよ、きの」
目を輝かせてやる気を見せるこども。
それに、笑顔で頷いてみせた。
「また、ここで。
……待っています」
約束を交わして。
また、ここでと。運命が繋ぎ留まるように。
in:死亡者掲載所
「……ふふ、それではこちらは、囚われの姫ですね」
ちいさなこどもに、物理的に護られる姿を想像して。
我ながら愉快で、くすりと笑みがこぼれる。
それから、取り出された用具と言葉。
自信のありげなこどもの表情に、ふむ、と首肯して。
「それはいいですね、きの。
そちらが描いた絵本を読める時がそのうちに来るなら。
日々を過ごすのも楽しみになるというものです」
果たしてどんな内容を描こうというのだろうか。
興味の惹かれるところでもあり。
in:死亡者掲載所
「竜殺しとは、恐れ入ります。
きのも、勇者のように強くなれるとよいですね」
うん、うんと相槌を打ちながら。
ふとこちらへ投げかけられた問いに、うん?と首を傾げる。
「……好きな絵本ですか。いえ……。
こちらには、そうしたものはありません」
小さく首を振る。絵本についての知識は多少なりとあれど。
思い出に残っているものが、果たしてあるのか。
──今は、記憶にない。
in:死亡者掲載所
「王道の物語のようですね。
ふふ、きのはお姫様よりは、勇者の方が良いですか?」
英雄譚を読むこどもは、自身を投影するものだ。
それが少女であれば、助けられる姫の側へ。
白馬の王子様を待つような、幼き憧れへと繋がるものだけれど。
どちらかと言えば、このこどもの憧れは、
勇猛果敢な英雄の方へとあるようだ。
in:死亡者掲載所
「……そうですね。
行きたい所は、こちらにはありません」
そうあれかしと望まれて。
ここにあるものなのだから。
それが、自然な事。興味も特に無く。
……不思議と。何故。
それが、この小さな子供との触れ合いには適用されないのか。
思考の隅を、ちらついたのは、考えない事にした。
「……絵本、ですか。
なにかいいものは、みつかりましたか?」
in:死亡者掲載所
「……そちらの名が、誰からも呼ばれて。
優しさを受け取っているのなら……
なにより、喜ばしい事です」
懐中時計を、小さな手が包んでくれたから。
そっと、今度は手のひらでこどもの頬を撫でる。
それから、問いかけに。……首を横に振った。
「いいえ、何処へも──行けないのです」
30層を越えて、今は40層へ。
その先へ進む度に、何かを失い、削る。
それしか、出来ない。だから。
どこかには、行かない。
どこへも、行けない。
in:死亡者掲載所
「ええ。……これは、そういうものだから。
きのに、持っていて欲しいのです」
かつて。
"わたし"が、大切な人に贈ったもの。
思い出せた霞の奥で、少女は笑っていた。
想いを込めて。誰かの為に。
「それに、身勝手かもしれませんが。
せめて──形だけでも、何かが。
遺ってくれれば、こちらは、嬉しい」
胸を抑えて、小さく俯いた。
もう、次は。──無いかもしれないという事を。
少しずつ、実感してきているから。
「この奈落で、きのに逢えて。
こちらは、そう──"たのしかった"のです。
だから──これが、その印」
in:死亡者掲載所
「これを。──そちらに。
あのとき約束した通りに」
小さな手の上に。少しだけ収まりきらないくらいの。
金色の、枠がひび割れた──丸い、月が。
「……受け取ってくれますか?きの。
たのしいとは、少し違うかも、しれません。
それに、時を数える文字盤は、見つけられなかったのですが」
本来ならそれは、黄金月の懐中時計。
月の裏側に、刻を数える文字盤を映し出す筈で。
その、不完全な外側だけが、辛うじて再現されたもの。
「──けれど、大切な。"わたし"の欠片を」
in:死亡者掲載所
「……もう叶わないと思っていた事を。
"わたし"の、欠片を。思い出せた。
30層の、深森に沈んだ瓦礫の中で」
懐から、掌に握り込めるくらいのサイズの、
何か、きらりと金色に光るものを取り出して。
「きの、手を広げて?」
in:死亡者掲載所
「……そうですね。こちらも学びは得ています。
と言っても……教訓と言うべきものですが」
一度。
そっと、こちらの胸の中心に空いている方の手を置いて。
ふるふると小さく髪を揺らし、十字を切った。
「ですが、その分。
いいことはありましたよ、きの」
in:死亡者掲載所
「ええ、とても。
もちろん、声が無くともきのは可愛らしいですが」
肯定を示して、そっと頬を、人差し指の背で撫でる。
「……学び、進んでいるのですね。
素晴らしい事です、きの」
in:死亡者掲載所
「おっと……!?」
抱きついてくるのはいつも通り。
それを受け止めて……
いつもとは違う所に、驚く。
「はい、こちらはシー・ムーンです。きの。
声が……喋れるようになったのですか?」
in:死亡者掲載所
こんにちはぁ~。
私は、Q……ええと、いまの名前はぁ。
C-Moon!そう、シー・ムーンですぅ。
何か御用ですかぁ?そうでないならお帰りくださぁい。
以上~!
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