CuraanaNow
「っ、……」
さながら結界の如く張り詰められた、
鋭い気配の糸がはらりと解けるのを感じる。
とはいえ、メリィローズから警戒心が消えることはない。
彼女は、自分より遥か上の実力を有した探索者。
気分次第で──“どう”なるか分からない。
「……そういう、こと……ですか」
きょろきょろと周囲を見回す。
ただでさえ人気のない廃棄区画だが、
“踏み入った話”をするには注意が必要だ。
このような場所にあっては、
どこで誰が聞き耳を立てているか、分かったものじゃない。
「……」
視線で物陰を示す。
それは少女にとっても諸刃の剣ではあったが──
どちみち、もう逃げられはしないのであれば。
▼ (メッセージへ移行します)
in:廃棄区画
「……っ、」
一歩、半身に引く。
だが、無駄だ。
距離を詰めずにいるのは、宣告だ。
“逃げられないし、逃さない”という。
メリィローズは、即座にそれを理解した。
先の跳躍で身体能力の高さは確認している。
恐らくは、自分より深みにある。
戦うにも、逃げるにも、
きっと、体力の無駄でしかない。
「……あなた、は……
……あなたも、“同じ”なのですか」
故に、それ以上身構えることはせず言葉を返す。
……問い掛けには答えない。
或いは、答える余裕もないのかもしれないが。
in:廃棄区画
「……っ、」
一歩、半身に引く。
だが、無駄だ。
距離を詰めずにいるのは、宣告だ。
“逃げられないし、逃さない”という。
メリィローズは、即座にそれを理解した。
先の跳躍で身体能力の高さは確認している。
恐らくは、自分より深みにある。
戦うにも、逃げるにも、
恐らくは、体力の無駄でしかない。
「……あなた、は……
……あなたも、“同じ”なのですか」
故に、それ以上身構えることはせず言葉を返す。
……問い掛けには答えない。
或いは、答える余裕もないのかもしれないが。
in:廃棄区画
何もかもが月の陰になる。
暗がりに一瞬交錯した眼差しは過ぎて、
あなたが告げた“彼女の望み”に、──
「……ッ、!」
──咄嗟に、身を離した。
此処まで、あらゆる接近に動じなかった女が。
「……あなた、は、……」
明らかに、動揺していた。
もはや、その背の槍を取らんばかりの警戒を滲ませて。
in:廃棄区画
「あら。
でしたら、よければお教え頂けませんこと?
私自身でさえ、私自身の望みが分からなくなってしまいましたもの」
視線を指先。そしてあなたへと向ける。
冗句とも取れる言の葉を手繰りながら、
声色の端には真剣が微かに滲んでいた。
それが本心だとして、初対面であり、
かつ得体の知れないあなたに吐露するのは、ひどくお門違いなのかもしれないが、
……ここの荒んで寂れた空気が、そしてあなたの纏う不可思議な雰囲気が、そうさせたのかもしれなかった。
暗がりを、月明かりだけが照らしている。
緩やかに絡められた指先から、陰が伸びている。
in:廃棄区画
その跳躍を認めてなお、
女は身構えることさえしなかった。
その背に負った大槍は伊達ではないだろうし、
ここは仲良しこよしだけが蔓延るような場所ではない。
それを理解して尚この有様は、
果たして勇気か蛮勇か、はたまた無謀か。
「あら、つまらない……なんてことはなくてよ。
あなたとお話できていますし」
見上げていた眼差しは、見下ろす形になるだろうか。
リボンタイはその生地さえ上質で、
先刻の表現を借りて述べるならば、本当に恰好の“カモ”なのだろう。
或いはそれさえも、釣り餌だったのかもしれないけれど。
「……そうですわね。望みはあったのかもしれません。
気晴らしをするのなら、娯楽区画もお食事処もありますもの。
それでもここに足を運んだのは……
……さて、どうしてだったかしら」
in:廃棄区画
「──……、」
声を掛けられて、視線が合う。
赤い瞳は凪いでいて、動揺の色は見られない。
いいや。気付いてなど、きっといなかった。
少女は低層を往く身。技量は多くの探索者に及ばない。
それでも、弱みを見せなかったのは肝が据わっているのか、或いは──
──予想の外からの接近を、既に予想していたかだ。
「……あなたは、……」
チラシ配り。或いは、その他の雑用をこなしているところを、どこかで目にしていたかもしれない。
残骸のふもとで、女はあなたを見上げる。
「……ええ、そうですわね。
用立てもなく赴くことを、どう表現するのかと云えば。
きっと、酔狂という言葉が相応しいのでしょう。
特に、このような場所であれば」
事実、深い理由はなかった。
……心の何処かで、予期せぬ遭遇を探していたのかもしれないが、それは結局のところ気紛れに過ぎない。
in:廃棄区画
そこに足を運んだのは気分だった。
自分で思う以上に、“友人が複製されたのだろう”という現実を受け止められていないのかもしれない。
あまりにもこの場に似つかわしくない小綺麗な赤いドレスに身を包んだ女は、
薄暗がりに積み上がる残骸の山を見上げ、
そしてその天辺にうすぼんやりと覗く月を見据え、
細く溜息をついた。
in:廃棄区画
「メリィローズ、ただいま帰投いたしました」
大槍を背負い直しクラアナから歩いてくる。
シザイは潤沢、かつ無傷。
ずいぶんと“稼ぎ方”も分かってきたところだが──
「……」
ちらりと、見知った相手がふたり、
探索に赴くところを見遣って。
「……平気かしら……」
自分とて、整理はついていないけれど。
in:クラアナ付近
「……」
見間違いではない。
遠方より様子を伺っていた女は、溜息ひとつ。
理屈は予想がつく。考えうる理由も筋が通っている。
だからこそ女は唇を噛んで、踵を返した。
頭で分かっても、心が追いつくとは限らない。
in:クラアナ付近
「でしたら、今後に期待ですわね?
……とはいえ、背伸びしても大変ですわ。
自然体で、あなたらしくあればいいのです。
お作法は、後からついてきますわ」
「……あら、ええと。今日は……
……え。お菓子が入っていますの……むむむ……」
……案外誘惑に弱いのかもしれない。
とかなんとか、ひとときの歓談を楽しんだだろう。
in:クラアナ付近
「あら。ふふ、私の真似かしら。
お見事だけれど、あなたはやはり、
普段通りが一番似合いますわね?」
くすりと微笑んで華麗に往なす。
お嬢様の心は広いのだ。
普段通りを知っているほどの接点も未だ無いのだが、そこは社交術みたいなものである。
「ええ。今日はもうへとへとです。
除染を終えてから、ゆっくりさせて頂きますわ」
in:クラアナ付近
「モモ。
ごきげんよう、ただいま戻りました」
距離感もなんのその。
もともと割りかし友好的な部類ではあるので、
にこりと微笑んで槍を背負い直した。
in:クラアナ付近
「あら。ふふ、ありがとうございます」
誰に向けたわけでもないからこそ、
反応があると嬉しくなってしまう。
幼子へぺこりとお辞儀をした。
お嬢様2号認識されていることはとにかく。
in:クラアナ付近
「メリィローズ、ただいま帰投いたしました」
誰に告げるでもないお決まりの科白と共に、
本日二度目の探索から帰投。
相変わらずの単独で、相変わらずの10層まで。
深くを目指すではなく、安全な積み重ねを選ぶ。
それもまた探索者にとっての生存戦略のひとつ。
手にしていた大槍をひと振るいして、シザイの整理。
in:クラアナ付近
「……と、とにかく、シザイを交換しないと。
あの大男を模したようなキカイからも
“スナッチ”ができるようになった今、
10層の探索はずいぶん安定し……」
見知った姿を、
正確には、ここに居ないはずの姿を見たような気がして
雑踏を振り向いた。
二、三、瞬きをしてから、
メリィローズはその場を後にした。
in:クラアナ付近
「……初めてましてのお方かしら。
本当、新しい探索者の方が増えましたわね……」
持ち帰ったシザイを整理して、キカイへ提出する準備を整えつつ。
「……」
親近感を抱く方も増えましたわね……。とか一瞬脳裏をよぎったが、ひとりでかぶりを振った。
お嬢様はどれだけ増えても良いのだ。
in:クラアナ付近
「メリィローズ、ただいま帰投いたしまし……
……なんだか賑やかですわね……?」
大槍を背負い直し、お嬢様(赤)が帰投。
in:クラアナ付近
「ええ、ありがとうございます」
通信端末を確認し、区画番号を記憶して。
「……ど、どなたかのご自宅に伺うのは初めてですわ。
手土産もないけれど、平気かしら……」
などと微妙にズレたことをのたまいながら、
あなたの後ろをついていった。
in:クラアナ付近
「はぇ?」
思わぬ申し出に、素っ頓狂な声が漏れた。
いけない、とふるふる首を振って。
「わ、私ですの?
それは……確かに大変有難い申し出です。
とはいえ、あなたにご迷惑をお掛けするのは
本意ではありませんし……」
「……んん。
すぐ結論できるものでもありませんわね。
熟慮させて頂くとして……一度、ご参考にお邪魔させて頂いても宜しくて?
他に御三方おいでなら、どういう結果になるにせよ、ご挨拶はしておかなくてはなりませんわ」
in:クラアナ付近