CuraanaNow
血は流れて止まらない。
体に埋め込まれたナノマシンが高速で体を修復するものの、
精々命を繋ぎとめる程度のものでしかなく、
むしろただ苦しみを長引かせるだけの状態だ。
子供がもう少し普段からまともな生活を送っていれば、
痛みに泣き叫ぶことも出来たのかもしれないが………
平常時ですら声を張り上げるほどの余力もない子供には、
掠れがすれの小さな悲鳴を上げるのが精いっぱいだった。
「なにすんだよ……くそ、やめろ………!
人殺しの、偽善者が……!殺してやる………!」
悪態ばかりが流暢に口から出るものの、
言葉と裏腹に君のような化け物に抵抗できる力を
子供は持ち得てはいない。
軽く押されただけでも、子供の体は容易に意のままの方向へ
押し出されていくことだろう。
"ゴミ"は誰の目にも届かない場所へと消えていった。
in:食料提供所
「じゃあ戻るか。」
余りで歩きたくはないものの、所詮は街中、
来ようと思えばまた来れる場所だ。
ならば薬屋に向かうのは今買ったものを試してからでも
遅くはないだろう。物乞いの子供も賛同するように小さく頷いた。
再度手を取られればまた不満げに手を見て、君を見上げて。
これに何の意味があるんだよ、と悪態をつきながら、
そのままなすがままに握られておく。
「特にないだろ、他には。
傷薬もいらねぇし。」
探索者、特に子供はナノマシンによる自己治癒能力がある。
ある程度の怪我ならばすぐに治ってしまうから、
薬に頼るようなことはほとんどない。
強いて言えば栄養失調気味の体は病には弱いかもしれないが……
それもまぁ、その時に買いにこればいいだろう。
「扉壊すのはお前がやれよ。」
そんな会話をしながら、マーケット区画を後にした。
in:マーケット
「とんかち………はんまー………」
一つ一つ、噛み砕いて飲み込むように
教えられた知識を復唱しては覚えていく。
何をする道具で、何ができるのか。
頭の中でイメージして、応用方法を探るのは
子供の元来の頭の回転の速さの証左でもあり、
そして、"そうしなければここまで生きてこれなかった事"の
証左でもあった。
そうしてバールに目を止めて、君に告げて。
「他は………いい。とりあえずこれを試したい。」
シザイだってそんなに余裕はないだろ、無駄遣いは避けたい、と。
君が会計を済ますのを、店の入り口で腰に手を当てながら待つ。
君が戻ってきたならば。
「次は薬屋か?」
小さく首をかしげて。
in:マーケット
「はぐれねぇよ。ちっ……」
無理やり振りほどくようなことはなく、
そのまま連れられる。
どのみち、本気で掴まれたら振りほどけないのだ。
本気でつかんだりなんてしないだろうけど。
そして、工具店。
並んだ様々な道具を翡翠の目で見渡している。
「どれがどういう用途なんだ?」
怪訝な目で小さく首を傾げつつ。
一つ一つ手で持ってみて。
ベッド修理に使えそうなのはてんでわからないから
君に任せて、扉に何かできそうなのを探す。
「……これ…………」
そうして見つけたのは、L字に曲がったバールのようなもの。
「……この形なら、こっちの長い方を押したら短い方に引っ掛けたのを
強い力で引けるだろ。あの扉の留め具、壊せるかも。」
所謂てこの原理。子供には共用なんてないから、恐らく経験則でそれを知っているのだろう。
ぶっ叩くよりは建物にダメージが少なく破壊ができそうな気はする。
in:マーケット
手を引かれて、ぼろ衣の子供が歩く。
深く被ったフードは、顔を殆ど覆い隠している。
「……ガキじゃねぇんだから手つないでなくても歩ける。」
不満げにそう言いながら、少し顔を上げて。
「……先に工具の方に行く。
仮に薬屋に例のがあったとして、
そんなに長い時間持ち歩きたくない。」
そう告げた。
in:マーケット
下がられるまでは、唯々身を強張らせて歯を食いしばっている。
下がられたら、少しだけ身体の力を抜くだろう。
「じゃあ飯だ。飯よこせ。
それなら話してやってもいい。」
交渉は成立。
実際の所話し終わった後になにも渡さず去っても、
何も問題はないだろう。
子供は君よりずっと弱い存在なのだから。
「だからこんな事になってんだよ。
人間は皆嘘ばっかついて仲良くするんだろ。
………ふん、頭からつま先まで気に入らねぇ奴だな……」
舌打ちと共に顔を一旦逸らして。
それから少し目を瞑り、また口を開く。
「………たまに、複製に失敗した奴が出てくるんだよ。
そういう奴は上手く記憶が転写されなくて、大元の人格じゃない、
そいつだけの人格が作られる。
だから複製体としての自覚も、いつ生まれたかの記憶もある。」
……自分の手を見つめて、軽く握ったり開いたりして。
「……でも、そんなしっかりした存在じゃない。
そのうち大元の記憶がよみがえって、人格が上書きされるかもしれない。
それくらい、おぼろげな存在なんだ。そういう奴は。」
「……自分を偽ったりなんてしたら、すぐに飲み込まれる。」
in:ブラックボード
空中を撫でる指の意味も分からない。
不機嫌なままで固まった顔は、指の動きに合わせて瞳が動く。
「まず何ならよこせるのか言えよ。
いいのがあったら教えてやってもいい。」
食い物か、知識か、経験か。
要らないものを渡されても困るだけだ。
こちらとて、教えようが教えまいがどうでもいいのだ。
大事なのは自分にとって得であるか否かだけ。
「ちっ……俺は嘘がつけねぇんだよ」
「なんだ?今まで何もされずに生きてきたのかよ。
殴られた事も、唾を吐かれて小便を掛けられたことも、
むりやり捌け口にされたことも?」
一つ一つ試してやろうか、というのは脅し文句。
言葉で想起する光景で不快な気分にでもなればいい。
ムカつく君への嫌がらせだ。
in:ブラックボード
「はーっ………はー………ッ」
荒げた呼吸と冷や汗の止まらない顔。
焦点の定まらない瞳がゆるゆる、君を向く。
「くそ、くそ……死ね……!ゴミ野郎………!
いらついて、暴力振るって、満足かよ……!」
……か細い声でつぶやくのは、憎悪の言葉。
形だけの命乞いでもしていれば助かる命もあるかもしれないのに。
子供はどうしようもなく………正直だった。
「被害者みてぇなツラしてんじゃねぇぞ……
そんだけ、力があって、殴れば人一人殺せるのに……
人の言う事に従いやがって……お前が自分で選んだのと一緒だ……!」
やりたくないなら、その力で以て保護者に反抗でもしたらいい。
それもせずに、ただ命令されたからという理由だけで人を始末しようとしている。
そんな奴が、さも善人みたいな顔でおろおろしている姿が気に入らなくて、
地面に血だまりを作りながら恨みつらみを吐き出した。
手も足も、全く動かない。
君は君が思う全ての事を、物乞いの子供にすることが可能だ。
in:食料提供所
甲高い悲鳴が頭に響く。うるさい。
痛い、痛い、痛い、体が動かない。
足も震えてる。逃げられない、痛い。
ひしゃげた腕から骨が突き出して血が流れてる。
……これだけ騒ぎを起こしても、周りの人間は君の保護者同様、
迷惑そうに一瞥しては歩き去っていくのみ。
"ゴミ"がいかようになろうと、気にするほど心に余裕のある人はここにはいない。
▼
in:食料提供所
「……そもそも、オリジナルかどうかなんてどうでもいい。
自分かどうかだ。」
子供にとって重要なのはそこだけ。
オリジナルだろうが複製体だろうが、
今自我を持つ己自身が保たれる事。
……それに執着している。
「っ!」
指を伸ばされれば、咄嗟に顔をかばうように手を構える。
自らに手が伸ばされるとき、それは加害を伴うものだと信じて疑わない、
そんな思考になるような生活を送ってきた事の証左。
実際に何もされないなら、ぎゅっとつぶっていた眼を
恐る恐る開いて………
「……あんたに話して何の得があるんだよ。
知りたきゃなんか差し出せよ。」
返した答えは素直さの欠片もないもの。
交換条件、というものだ。
「……ちっ!いちいち笑いやがってムカつくな……
何か苦手で仕方ない事はねぇのかよ」
常に笑みを漏らすその顔に辟易とする。
一度でも歪ませられたら留飲も収まるものだが……
あるいはさっさとどこかにいってもらうか。どっちかだ。
in:ブラックボード
「怪我しないような強い奴でも口説き落とせよ。
そんで、裏切られて、殺されとけ。
そのムカつくにやついた顔が歪むのが見れないのが残念だな。」
ふん、と鼻を鳴らして最後の言葉に嫌味を返した。
貧弱な子供では、その言葉を自分で実現は出来ないのだった。
in:ブラックボード
この世界で見た目というのは大した意味を持たない。
巧妙に人体を模した義体も出回る中、
弱そうだと思った女子供にちょっかいを掛けたら複製体に……
なんていうのはどのボードでもよくある話だ。
この世界は、自分の体を捨てた化け物が蔓延っている。
だから子供は、なんにでも警戒をする。この世の全てが敵だと言わんばかりに。
「……はっそうだよな。複製体は複製体の自覚なんかない。
もしお前が死んだら、お前の複製体が何食わぬ顔で街を歩くんだろうよ。
自分が体験してもない記憶を、さも自分のものの様に持ち歩いて。
………普通の複製体は、そうだ。」
まるで、普通じゃない例を知っているかのような言葉。
距離を詰められれば威嚇するように唾を吐く。
………不機嫌そうな顔の中に、怯えの色。
「ふぅん、だったらもっと上の階層にいけよ。
つえぇ奴はシザイを稼いで、こんなとことっくにおさらばしてる。
ここは稼ぎも出来ねぇ雑魚か、それを食い物にする悪人しかいねぇよ。」
どんな言葉にも、律儀に回答を返す。
不機嫌でぶっきらぼうで嫌悪感丸出しではあるけれど、
語る言葉は真っ当だ。
in:ブラックボード
ヒュン
ゴ
キ
ャ
ッ
「ぁ…………あ"ぁ"!?」
咄嗟に、顔をかばうように腕を交差させて防御姿勢を取った。
───そして、両腕ごと右肩が砕かれた。
子供は非力だ。重量も君の1/3ほどもなく、
構えた腕は棒きれのように細く脆い。
痛みに呻き以上の声がでない。
熱くて火傷しそうなほど熱を持つ右肩に視線をむけて、
口をはくはくとさせる事しかできない。
両腕はもう動かない。持ち上げる事すらも出来ない。
………華奢な体を砕く感覚は、アイスの棒を二つに割るような心地で。
きっと、ストレスの発散に貢献したことだろう。
君がすっきりしたのなら、このまま放置して帰ってもいい。
そうでないならば。
まだ砕ける所はたくさんある。
in:食料提供所
生後三日。
その言葉に嘘はないように思える。
しかし生後三日の生物の体ではないのも確か。
こいつはなんだ?キカイか?化け物か?
得体のしれない未知のものに、抱くのは恐怖と嫌悪。
「呻くだけじゃわかんねぇよ。
言いてぇことが─────」
翡翠の瞳が、大きく開かれた。
▼
in:食料提供所
一歩歩み寄られれば、身を固くして構える。
手負いの獣のような警戒心を露にして、
君を睨みつける目は逸らさない。
青と緑、似てるようで違う瞳が交差する。
「……はっ……元の自分の事すらわからなくなっちまうのか、
義体ってやつは………じゃあなおさらやりたくないな。」
"自分が自分でなくなる事への恐怖"
子供は一貫してそれを忌避している。
まるで、ふとしたことで自分という存在が消えてしまう、
とでも思っているかのようだ。
体が傾き、近づいた顔。
普通の人間ならばその仕草を可愛いと思うのかもしれない。
しかし子供にとっては、いつでも殴れる間合いに入ってきた
見ず知らずの奴、だ。唯々警戒だけが強まる。
「……人なんて信じていい事、一つもない。
あんたは何で一人で行ってんの。誰かと行けばいいだろ。」
君はどうだろう。
人を信用して、共に穴倉に潜ったりはしないのだろうか。
in:ブラックボード
こちらはといえば、親近感の欠片もない。
いちいちショック受けてんじゃねぇよ、鬱陶しい、と
追い打ちまで仕掛ける始末だ。
「……生後三日?複製体か……?」
君から漏れた呟きには、少しだけ首を傾げた。
しかし複製体は普通、自分の生まれた日なんて覚えてないだろう。
ハカセ、と呼ばれた人物の塩対応ぶりから見ても、
普通の、話によく聞くカゾクというものとは違うように思えた。
泣きそうなのは特に何も思わなかった。
「あぁ………?
働ける場所も、信用できる奴もいねぇからだよ。
働ける場所があって報酬が貰えるだけいいだろ。」
…不愛想な態度のわりに、子供は君の言葉に律儀に返す。
こうも薄汚れた物乞いの、それも年端も行かない子供。
働かせてやろう、なんて考える者は普通おらず、
そして報酬の後払いを信じて働けるほど、信用できる人間もおらず。
今の待遇が嫌ならやめて俺みたいに物乞いでもしてろよ、と、
ふんと鼻を鳴らしながら吐き捨てた。
勿論おやつ一粒も貰えない日の方が多い。
in:食料提供所
何なんだこいつは。
……とでも言いたげな怪訝な顔を露骨に浮かべて。
子供は君の姿を改めて瞳に映す。
背はそう自分と変わらないくらい。子供に見える。
服装はよくわからないが、ぼろ衣ではない。
頭のは……なんだ?被り物か?それとも頭の義体か?
警戒心剥き出しの視線を無遠慮に浴びせつつ……
「……あぁ?」
両腕を広げられれば少し身を引いた。
顔を守る様に手も構えたが、特に何もされなさそうであれば
そのままゆっくり手を下ろす。
得体のしれない存在だ。子供は手負いの獣が毛を逆立てるように、
背中を丸めて警戒態勢を維持し続けて。
君が疑問を呈したら、眉間に寄った皺がさらに深まった。
「…うぜぇな、煽ってんのか?
シザイなんかねぇよ。見りゃわかんだろ。
あんたは甘やかされて育った馬鹿なガキなのか?
いいよな、何もしなくても親から飯が貰える奴はよ。」
吐く言葉はどれも棘があってつっけんどんだ。
君が実際に親に愛されて育った子供なのかどうかは知らないが、
子供はそう決め付けてぺっと唾を吐きかけた。
いずれにせよ……君に伝わったのは、
『無一文の乞食のくせに態度のでかい子供』だという事だ。
in:食料提供所
口にされていれば余計に眉間の皺を深めただろう。
そうでなくとも、不機嫌な顔はずっと変わらない。
それが普段の顔であるかのよう。
「はっ………知るかよ、化け物は化け物だろ。
強さを求めて自分の体を捨てて、作り替えた体で人間の振りをして。
死んでもごめんだ。俺が俺じゃなくなるなんて。」
その返答だけ聞けば、単に生身に拘りがあるだけかもしれない。
日和見した弱者の、僻みにしか聞こえないだろう。
続けて言われる言葉には
「最初からじゃない。」
強く否定の言葉を吐いて。
それから。
「俺は………違う、違う、俺の記憶じゃない………
……俺は死んでない……俺じゃない………」
……ぶつぶつ、頭を抱えながら呟いて。
緩く首を振って、また顔を上げる。
「……自分じゃなくなるのが、怖くないわけ?」
そんな問いを、投げかけた。
in:ブラックボード
フードを目深にかぶって狭まった視界の代わりに、
紅い髪に隠れた耳は周囲の音をよく拾う。
ひそひそ話に陰口はまぁ慣れたもの。
子供の声も聞こえる。こんなとこに家族連れか?それとも羊飼いか。
……いずれにせよ、全て雑音だ。
子供にとっては、フードを目深に被って狭まった、殆ど足元しか見えない視界だけが………
その視界の中に入ってきたものだけが、興味を持つに値するものだった。
「……………。」
小さな世界に、闖入者。
よろり、と顔を上げる。不機嫌に眉をしかめた、翡翠の瞳。
睨みつける事1…2……3秒。
「……見て分かんねぇのか、飯を貰おうとしてんだよ。
くれよ、飯。親にでもおねだりして貰ってきてさ。」
口にしたのは、とても物を乞う者とは思えないぶっきらぼうで不遜な言葉。
普通の人間なら不快に思い、そのまま立ち去るような態度。
もしかしたら腹いせに蹴飛ばしてく人だっているかもしれない。
君は、どうだろう?
in:食料提供所
フードを目深にかぶって狭まった視界の代わりに、
紅い髪に隠れた耳は周囲の音をよく拾う。
ひそひそ話に陰口はまぁ慣れたもの。
子供の声も聞こえる。こんなとこに家族連れか?それとも羊飼いか。
……いずれにせよ、全て雑音だ。
子供にとっては、フードを目深に被って狭まった、殆ど足元しか見えない視界だけが………
その視界の中に入ってきたものだけが、興味を持つに値するものだった。
「……………。」
小さな世界に、闖入者。
よろり、と顔を上げる。不機嫌に眉をしかめた、翡翠の瞳。
睨みつける事1…2……3秒。
「……見て分かんねぇのか、飯を貰おうとしてんだよ。
くれよ、飯。親にでもおねだりして貰ってきてさ。」
口にしたのは、とても物を乞う者とは思えないぶっきらぼうで不遜な言葉。
普通の人間なら不快に思い、そのまま立ち去るような態度。
もしかしたら腹いせに蹴飛ばしてく人だっているかもしれない。
君は、どうだろう?
in:食料提供所
「騙される方が悪いんだろ。俺だってそう言われた。」
「自分の力で生きろとか、人に迷惑をかけるなとか、うるせぇんだよ!正しく生きたら絶対に救われるのかよ!?」
「じゃあね。もう二度と会わないよ。」
ボロボロの服に身を包んだ赤髪の少年。
湯浴みもろくにしていないのか、体中汚れていて獣臭がする。
→現在、比較的新しい服に身を包み、身体は綺麗になっている。
白い肌に燃えるような赤い髪の少年だ。
しかし、なにもせずに時間が経てば、また元のように戻っていくだろう。
→手枷の鎖が、乱雑に千切られた。
子供の手は自由になった。
子供に親はいない。
子供は、裏切られて死んだ記憶がある。
子供は、死んだ経験はない。
(PL:イラストはルルクスさんに頂きました。ありがとうございます!)