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No.747569757
クララ
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アンダーボードの子どもたち
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in:酒場


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「こんなところまで来るとは、アンタも物好きだな」

カランカラン。
酒場には、他の客はいなかった。
たった一人の店員が、カウンターの奥で呆れたように苦笑する。

「アンタが来たら、これを出そうと思っていた」

カウンターに並べるグラスは二つ。
黒く太った平たいボトル──ラベルには旧時代の文字で『シュトローラム』と書かれている──から、ラム酒を注ぐ。

「もう寝潰れるなよ」

肩をあげるジェスチャー。一瞬、胸元から直線の傷が覗く。
見えたことに気づいたのか、心底くだらなさそうに鼻で笑えば。

「ごゆっくり」

布で手を拭い、カウンターの奥へ消えていった。



in:酒場


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────。

in:酒場


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とあるアンダーボードの一角。
クララは、友人だった子どもが撲殺されたいた場所を眺めていた。


アンダーボードには四肢(パーツ)未満で生まれてくる子供が多かった。
四肢や遺書を書く学がなければ、探索者になる資格すらないのが、見過ごされるエデンの事実だ。謂わば探索者以下の生存価値。そのため、固形食や就寝施設を利用することもできない。殴られ破傷風にでもなれば、簡単に死に至る。

だからクララは、消毒のために度数の高い酒瓶をよく盗んだ。酒を盗んだ冤罪であの日殴られた子供は、口が利けなかった。自分がやっていない、と話すことができず、クララの代わりに死んだ。それでも酒屋の男は、酒瓶を取り戻すまでアンダーボードの子どもを殺し続けるはずだった。自らが店長に殴られないようにするため。


だというのに、死ぬはずだったクララは酒瓶を抱えたまま生きている。
どこかの鉄くずをそっと添え、少女はこの場を後にした。


どこかの数奇な運命の話。


in:アンダーボード


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あれから何日が経っただろうか。
エンドボードとクラアナの狭間に、ひとつの死体が打ち捨てられていた。

死体の傍らには耐えがたい腐敗臭以外、何も無かった。
ひとつとして友人のパーツを掬い上げることなどできなかった。
それらは取りこぼされて、死体の向かうことのできないクラアナ内部に落ちていく。

死体がクラアナ内部に向かうことは許されなかった。
なぜならラム・テキーラは、探索者ではないからだ。


探索免除期間の終了したクラアナ付近は、今日も探索者たちで賑わっている。
誰もが、この死体の存在には気づかない。
死んで尚クラアナに挑む権利を与えられないまま、忘れ去られた地で腐り落ちていくのだろう。



死体は、動かなかった。
それでも死体は、満足そうだった。



in:エンドボード


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………………。
…………。
……。


あらゆる非道が見過ごされ、あらゆる不幸が見落とされるエンドボードでは。
ひとつの奇跡(つくりばなし)ですら、誰も目撃することなく、見逃されてしまうのだろう。


in:エンドボード


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……存在しないはずの死体の声が、内側で響いてる。

──死ね。死ね。死んじまえ。
アンタも俺と同じ苦しみを味わって死ね。
狂人が、気色悪いんだよ。
レイプ魔はどっちだよ。嘘つきはどっちだよ。
なあ。

子供の一人くらい、殺したっていいじゃないか。
俺は探索者になることもできない落伍者だ。
アンタのようにクラアナで怒りを発散させたり、シザイをたんまりもらうことだってできやしない。

アンダーボードで生まれたガキは、アンダーボードから出ることの無いまま生涯を終える。
あのガキも。俺も。
アンタのような、何者かにはなれない。

だからいいだろ。
俺は、俺の過去を殺したって、よかったはずだ……。
…………。

さっさと、アンタも死ねよ…………。




in:エンドボード


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この死体は、死体となってからただの一度も動かなかった。
担がれようと、犯されようと、コートを着せてもらおうと。
ぴくりとも、動いたことはなかった。

────。

嵐の夜。
ラム・テキーラは、クラアナの闇の空を飛んでいた。

その飛行は、誰も見たことがないほど美しいものだった。
空気抵抗を極限まで削ぎ落とされた胴体は、優美な曲線を描いて滑空する。肩甲骨は大きな翼となり、豪雨を振り払いながら勇敢に羽ばたいていた。クラアナの絶壁の隙間をギリギリですり抜けるたび防腐液が零れ落ち、加速が研ぎ澄まされていく。

落雷。一瞬の鮮烈なフラッシュ。今やバラバラとなった大きな腕や脚の影が色濃く落ちる。炎の剣が撃ち出すケルビームのように、何度も死体を目掛けた稲妻が走る。
しかし、ラム・テキーラは一瞬たりとも怯まない。身体を斜めに傾け、それらを全て避けてみせる。
汚染物質を含んだ雨粒が肌を上る。雨より早いスピードで急降下し、砕けた腕を掴もうと首を伸ばした。

自分のために突進してくれた、友人を名乗る大男を救うため。

in:エンドボード


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損傷した死体は大男に運ばれるまま、雨音響く廃墟内に横たわる。
薬品の異物たる匂いは、次第に空気に溶け気にならなくなる。
それをラム・テキーラの『反省』と見ても、このつくりものじみた空間では何ら不思議でないだろう。

雷光。
死体の胸部の焼跡が、殴られ黒ずみ、歪んでいる。
床に張られた液体が、ぬめり、現実だけを反射している。

死体は、ただそこにあるだけだった。
ひとつとして、なんの意思もなかった。

突然ウサギにお持ち帰りされようと。
友人を名乗る男に強姦魔と呼ばれようと。
亡き恋人の幻影と並べて寝かされようとも。

死体は動かず、誰の味方もしなかった。

in:エンドボード


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ぶら下がった無意味なものを弄ばれ、抱かれ続けた死体には、たしかにソナーポットの香りが残っていたことだろう。
尤も、今やそれ以上の濃密な匂いを発する体液に塗れているのだが。

死体は空想の世界に関与せず、黙ったままだった。
一方的な加害を受けるそれは、ソナーポットを助ける腕も足もない。

損傷は進む。
殴られるたび防腐液は漏れ広がり、加工員が命と引き換えに行った仕事は見るも無惨な姿になっていく。

大男の顔にかかった防腐液は真新しい薬品の匂いがした。
それは暗闇の中、冷淡な怒りの匂いを周囲に飛び散らせた。

in:エンドボード


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相変わらず裸のまま、無意味なものを晒している死体である。

この死体に四肢はなく、その断面はつるりとなめらかだった。
両脇を埋めても、本来ある凹凸にあなたたちのミミが邪魔されることはない。

三人が眠りについても、死体はただそこにあった。
呼吸もせず、眠りもせず、冷たいままに不思議な匂いを漂わせて。

胸部に、奇妙な直線の傷をつけたまま。

in:エンドボード


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これはウサギたちの巣にお持ち帰りされてしまった死体である。

抱き枕にするには、真新しい防腐剤を詰められたそれは少し固くて薬品臭い。
しかも、そこそこ冷たい。何かで包んだほうが寝やすいかもしれない。
そもそも抱き枕の用途は向いていないのかもしれない。

しかし、死体は文句のひとつも言わず、ウサギたちに抱かれていることだろう。

in:エンドボード


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ウサギたちが群がってきても、死体は動かなかった。
死体は服も着せられず、剥き出しの状態でいる。

あなたたちが囲って、まじまじ見つめて……。
…………。

ふいに、強い北風が吹いた。
仲間内のウサギが言う通り、冬の訪れを感じさせる冷たさだだろう。
それは捨てられたビニール袋をバタバタと運び、死体の無意味なところを隠した。

in:エンドボード


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エンドボード内の死体加工場近く。
四肢と頭(ヘッド)のない死体が、死体廃棄場の近くに転がっている。
誰かが防腐加工を注文したが、どうやら社内での手違いがあり、中途半端な位置に運ばれてしまったようだった。

死体は、動かなかった。

in:エンドボード


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コートも剥ぎ取られ、剥き出し状態の死体だ。
腹をつつかれると、付着したまま乾いた謎の液体が、ぱりぱりとうすく剥がれる。
加工員に抱えられても、死体はぴくりとも動かなかった。

死体の防腐処理は、中の液体を抜き出し、新たに防腐液を詰める、というものだった。
その際に、死体の損傷があればできる限り治す。そうでないと縫合しづらいからだ。

加工者は胸部に直線で刻まれた『キャー』の字を見た。
これを修復すべきかどうか考えながら、作業は進んだ。

in:エンドボード


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大きな月が出ていた。
トタン屋根の影が、あなたと死体の上に落ちている。

深更の静けさに、布ずれの音が微かに響く。

開いた襟から手を差し込めば、胸部に刻まれた金属の跡がよく見えた。
さらに腕を伸ばせば、縫合された腕の付け根が、つるりとした違和感で貴方を迎える。
本来あったであろう腋に阻まれることなく、肩甲骨まで簡単に指が届くだろう。

熱い吐息がかかっても、死体の皮膚は粟立たない。
苛立ちの矛先を向けられても、騒いで抵抗することもない。


死体はただ、そこに転がっているだけ。


遠くで犬人間の遠吠えが聞こえる。

in:エンドボード


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死後硬直がとっくに経過しているとはいえ、四肢の無い死体にコートを着せるのは容易なことだった。
びゅうと吹く北風に、通す腕の無い袖が揺れる。

あなたが話し続ける間も、死体は動かなかった。
時折周囲で何か騒ぎが起きて、風圧でぱたぱたと余った布が音を立てるだけだ。

友達と呼ばれても。
ラム・テキーラは、動かなかった。

in:エンドボード


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「検査着って……もしかして舞踏会のおドレスのことですの〜〜〜?!?!?!」

in:探索者審査会場


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あなたの笑みに、クララもまた微笑みで返す。


生存価値に支配された世界だった。

たとえクララとカーサが尊ぶべき何かを見つけても、
日毎すり減る価値を無視すれば、
生きることを許されない、"価値なきもの"になるだろう。

暗い穴の底を何千と掘り進めても、見つかるかわからないもの。
ニンゲンとして生まれた、価値の意味。

「カーサ。
 あなた、笑っているほうがずっと素敵でしてよ」



クロームの温もりと、その笑みに。
クララはひとつの、"価値"のすがたを見た。



in:娯楽区画


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「査定後はお嬢様おほほソードが見つかるようになるって本当ですの〜?!」

ガセだ。

in:クラアナ付近



Line クララはお嬢様ではないし、死体が空を飛ぶはずもない。
それでもぼくたちの真実を、だれかの真実としてくれるのなら。