CuraanaNow
「ここにあんたを救う神がいなかった事は確からしい」
事実として、あなたを助けたのは人間なので。
仏頂面の男は浮かべた笑みに対して愛想笑いを返しもしない。
とはいえ手を伸ばされれば、
眉を寄せ、暫しの思考ののち、引き起こそうとはする。
軽薄な笑みからああ言えばこう言うだろうと判断した。
「ここは人類最後の居住区域、『エデン』。
そこから棄てられたものが行き着く、その廃棄区画です」
何にせよ。乗りかかった船だ。
説明の一つくらいは安く済む。
「詳細は歴史家の仕事ですので、省きますが。じきにわかります。
ここには穀潰しに施すような余裕はない。
あんたが生き残る術は、『探索者』となって
自分が"生存し続ける事"の価値を示すことだけです」
「探索者──そして、地下に広がる穴。
それらに関しては、そっちの方が詳しいんじゃないですか」
そっち、と視線を向けるのは色眼鏡の男の方。
棄てられたものの中から価値を見出そうとする。
振る舞いは正しく探索者然としているように見えた。
in:廃棄区画
「……宗教施設の…いや」
「"外"から流れ着いたか」
とぼけたような語り草に独り言ちる。
この世界にも宗教と名の付くものはあるらしく。
けれどこの世界の出であれば、よほどの酔狂者でない限り
とっととこんな所は後にしているだろう。
よその世界から来たものであれ、或いは、であるからこそ。
ここでは他の者と等しく人権がない。
探索者になるなり生きるに値する価値を示せないのであれば、
シゲンとして処理された後、ここに積まれた絞り滓の仲間入りだ。
「ゴミ溜めにも神ってのは居るもんですかね」
「あんたが今置かれている状況について、案内は必要ですか」
「生憎ボランティアじゃありませんが、
『使える』なら野垂れ死なれるよりは良い」
in:廃棄区画
そんなだから誤解をされるのだ。
いつか誰かに言われた言葉がリフレインする。
眉を顰めたことか、或いは視線を気取られたか。
マナー違反。ゴミ漁りを咎めるつもりはなかった。
そんな正義感は持ち合わせていない。
正義感で生きていけるほど世界は甘くもない。
ここに長居する用も無い。
ゴミ漁りを続行する様子を見て、立ち去ろうとした。
「誰もがここでは人間性さえも落としていく。
掃き溜めでは何に抵触することもないが、とはいえ」
「""事""だなぁ」
色眼鏡の男が奇妙な落とし物を見付けてしまうまでは。
どこかの法では、遺失物を発見し、届け出た場合
最大で遺失物の2割までを所有者に請求することができるらしい。
人のかたちをしたものの2割とは何になるだろう。
in:廃棄区画
「体の良い雑用と思われちゃいないか」
まあ、事実なのだが。
積み上げられた文明の絞り滓の上に
新たな廃棄物がまた積まれていく。
探索者となってこっち、探索以外の時間は大抵、
知り合いやそのまた知り合いからの雑用をして過ごしていた。
「…………」
ゴミ山を見渡す。眉を顰める。
こんな所で。
in:廃棄区画