CuraanaNow
並ぶ名と文字を確認する。指でなぞる。
ささやかな鼻歌を歌いながら。
in:死亡者掲載所
「こんにちは、おじさん」
「こんにちは」
挨拶には挨拶を返しておくのが処世術。
挨拶だけして去っていった。
in:クラアナ付近
歌が一巡すれば、それを見るのをやめた。
再び沈黙に戻ると、隅に座り込む。
in:死亡者掲載所
今日もまた、並び連なる名を眺めて。
ささやかな鼻歌と共に指でなぞる。
自分の名前は、まだない。
知り合いの名前も、ひとつもない。
in:死亡者掲載所
ささやかな、途切れとぎれの鼻歌。
隅で声を殺して泣いている。
in:死亡者掲載所
ほとんどキカイと呼んでも差し支えなさそうな存在がやってきて、また去っていくのをぼんやりと眺め。
いちど、周囲を見回す。
しばらく立ち尽くす。
そのうち、片隅に腰を下ろした。
in:死亡者掲載所
探索を終え、錆臭く汚れたままやってくる。
掲載された名を改めて眺めた。
あの時に書き足された『汚い黒猫』の文字。
するりと爪先を動かして、指でなぞる。
鼻歌をうたう。ささやかに、ささやかに。
in:死亡者掲載所
持ち帰ったばかりのシザイをぼろのカバンに詰めて、ずるずる引きずりながら歩いていく。
少し物色しては、次の店へ。
ささやかな鼻歌をうたいながら。
in:マーケット
ぽそ ぽそ
in:朽ちかけの通信機
『ひとつひなびたむらのそと』
『ふたつふかいのそらにうく』
『みっつみえないほしをみて』
『よっつよるにねがいごと』
『いつしんでもいい』『いつしんでもいい……』
ぼやくような声。携帯食料をかじる音。
in:朽ちかけの通信機
今日も掲載所に並ぶ名前を確認する。
ささやかに鼻歌をうたいながら。
毎日増えていく字を指でなぞる。
in:死亡者掲載所
返事はしない。
少年の前に置いたほんのひとかけらの食料を、横から誰に奪われることもなく手に取ったのを確認すれば立ち上がる。
立ったまま、物乞いの少年を見下ろして。
足を引きずりながら、今度こそ去っていった。
in:死亡者掲載所
少しして、再び戻ってくる。
少年の目の前にしゃがみ込むと、泥を横によけた。
食料提供所で貰ってきたばかりの小さな固形食をぱきりと割って、3分の1ほどを置く。
in:死亡者掲載所
びっこを引きながら、歩いてやってくる。
なけなしのシザイと味気ない食料を交換した。
in:食料提供所
掲載された名前を確認し終え。
座り込んだままの乞食じみた少年を見下ろす。
靴底についた泥を指で拭って、座り込む少年の前に置いた。
鼻歌をうたいながら、掲載所の前を去っていく。
in:死亡者掲載所
そこに居座る乞食を一瞥した。
そのあとで、掲載された名に目を通す。
並ぶ名と遺言を指でなぞる。
ささやかな鼻歌。なぞっていく。
in:死亡者掲載所
誰かの名前を探すように、立ち並ぶ文字を指でなぞる。
立ち尽くしていた。しばらく、そこで。
小さくささやかな鼻歌をうたう。歩いて行く。
in:死亡者掲載所