CuraanaNow
「ええ。」
「行きましょ、一緒に。」
差し出されたその手を握り、小さく囁く。
跪いたあなたの貌を覗き返して、その蒼瞳をわざとらしい色気に浸した同じ色で見つめて返す。
こんな妖しい彩り漂う路地には至って似つかわしくない気品と間に満ちた所作は、まるで、2人だけが違う時間に生きているかのようでさえ。
高嶺の青、色高き白に金と銀。
鼻をくすぐる微かに香りは、より一層その主張を増す。
「王子さま?」
それは、迷い子などではない。
端から"往く処"はそこだと、そう決めていたのだから――
in:ファッションホテル
「ええ。」
「行きましょ、一緒に。」
差し出されたその手を握り、小さく囁く。
跪いたあなたの貌を覗き返して、その蒼瞳をわざとらしい色気に浸した同じ色で見つめて返す。その様子は、こんな妖しい彩り漂う路地には至って似つかわしくないように気品に満ちていたことだろう。
高嶺の青、色高き白。
鼻をくすぐる香りは、より一層。
「王子さま?」
それは、迷い子などではない。
端から"往く処"はそこだと、決めていたのだから――
in:ファッションホテル
鉄と錆ばかりの楽園の塔は、それでも、ヒトの営みが為されるに十分な環境が揃っている。
一介の探索者であれ、そうで無い者であれ。配給所に足を運べば食事にはあり付ける。湯浴みに行けば穢れは落ちるし、就寝施設には丁度人間1つを押し込む分の穴蔵が無数に開いている。
そうでなくとも、この少女の身なりは場違いな程に可憐なもの。下卑た欲望漂う寝屋を前にして、卑しい者たちの下心をくすぐる香りと幼さに満ちたその姿は、恰好の相手と言えるだろう。
「………。」
だのに、その少女は"待って"いた。
まるで、ただ普通に買われることに飽いてしまったかのように。
(⇒)
in:ファッションホテル
「うふふ、そうね、今は何時かしら。
でもそれほど変わらないわ、こんな処なら」
背丈の違う互いが並んで瞳を合わす。
少女の身なりもまた、探索者としては清楚で清潔に過ぎるものであったろう。それこそ、この楽園の高きに住まう者たちのソレにも似たようなもの。
「なにを? ……うふ。
"おやど"が無くて困っているの。今日を安心して過ごせるだけの、地べたよりはマシな温かさが欲しくて――」
品定めの色気には"これでもいかが"と言わんばかりに。
その場でクルリと軸一つ。大きなスカートが小さく揺れて、辺りに漂う奇妙な香をより深めて。
in:ファッションホテル
「――ええ?」
聞こえた声に振り向けば、その少女の貌がよく見える。
艶の霞んだ蒼瞳、肩から覗く白肌を覆うドレス、どことなくあなたとも似たような色合いだが――少女のそれらは、より温かみの失せた印象を抱かせるものだったろう。
「ふふっ、こんばんは。
……私のこと、呼んでくれたかしら?」
微かに笑んで、向けた視線を小さく細めて。
僅かに傾けた顔で、あなたの容姿を確かめるように。
in:ファッションホテル
――ふわりと、ふと。
如何わしき彩色漂う寝屋の前で、小さな少女が彷徨っている。
儚げな色合いのドレス、長く端整な薄金髪。方々へと歩んで戻ってを繰り返す様は、まるで親と逸れて迷子になっているかのよう。
「~♪」
少女の揺らぎと共に広がるのは、故知らぬ清涼な花の香り。
あなたが感じたかもしれない香水の匂いへと、その色気が少しずつ混ざり込んで行くことだろう。
in:ファッションホテル
「ふ」 「はっ」
瓦礫と鉄屑まみれの入り込んだ通路を
弱々しい息遣いを垂らしながら歩む少女が1人。
滴る汗が頬を伝い、顔を汚した鮮血へと入り混じる。
「――う」
その白く細い右腕は暴走キカイの一撃で
無残にも大きく弾け飛び、原型を失くしかけていて
僅かに残った肉で繋がるそれを、もう片方の腕で抱え込む。
「く ぁ……ッ」
破けた衣服に、夥しい赤、剥き出しになった白。
鮮血に汚れた薄藍色のドレスを揺らしながら
汚れた油の浸み込んだ靴を引き摺りつつ、ふらふらと。
戦いに慣れぬ花売りは、途切れかけの意識のまま彷徨う。
無防備で、衰弱しきった小さな獲物のようにして。
in:クラアナ内部
「ふ」 「はっ」
瓦礫と鉄屑まみれの入り込んだ通路を
弱々しい息遣いを垂らしながら歩む少女が1人。
その白く細い右腕は、暴走キカイの一撃で
無残にも大きく弾け飛び、原型を失くしている。
「――ッう」 「くぁ」
破けた衣服に、夥しい赤、剥き出しになった白。
鮮血に汚れた薄藍色のドレスを揺らしながら
汚れた油の浸み込んだ靴を鳴らし、ふらふらと。
その姿は至って無防備な、弱りきった獲物のようで。
in:クラアナ内部
怪しげな光に撫でられる路地の端で
ふらりと、1人の少女が立っている。
誰かを待っている訳でも無く
ほのかに漂う香りを身に纏いながら
蒼い花弁のように、小さく揺れ動く。
in:ファッションホテル
「おいで、外は寒かろう。
今日一日はここが君の住まいだよ」
嘘だらけの声に笑顔に照らされて
その少女もまた、男に対して小さな笑みを見せる。
何も知らない無垢な子供のように、可愛げのままに。
「さあ。」
ドレスの少女が伸ばした片手を、男の片手が握る。
示す態度に相反して、その手は力強さに溢れていて
細い白肌に食い込む僅かな痛みが、少女の眉をひそませる。
あっというまに路地から姿を消した少女の
その後についてのことは、誰も彼もが知らぬ処。
in:エデンボード
汚れに穢れに溢れて濡れた、泥の世界の蓋の上。
清涼感の強い香りを纏うドレスの少女が歩み往く。
長く端整な薄金髪、穢れ一つ無い人形のような姿。
見回す限りの清潔な人住まいを横目にしつつ
優雅に歩むその先は、とある処の大きな家。
「待っていたよ、お嬢様。」
門に隔てられた玄関を抜けて
家主らしき男の声が小さく響く。
高嶺の花売りは、その声に行儀良い一礼を。
(⇒)
in:エデンボード
――ふわりと。
その少女が歩む所には、清涼な花の香りが漂う。
どうにも探索者らしくないその姿は儚げだ。
「……ああ。」
暫くぶりに足を運んで辺りを見やれば
新しい探索者の姿に曖昧な笑顔を送る。
とはいえ、この少女は探索者では無いのだが。
in:クラアナ付近
高嶺の花弁は地獄の誘い。
堕ちたばかりの身を振り歩けば、そこには必ず、己を拾い上げてくれる"優しき"者らが姿を見せる。
それが如何に危険で横暴な存在であったとしても――"死"という楔が消えて久しい世界において、それでも、我が身一つばかりを可愛がるのが人の性。
生への義理は消え失せて、死の尊さなど語る余地は無く。
己の『価値』など、どうせ他者に食われるばかりの餌に過ぎず。
さてならば、この少女はどちら側であろうかと。
「――ええ。」
ここは昏い楽園のゴミ溜め場。花園代わりに見えるのは、赤やら青やら何やら何かと雑多な色合い。
あなたの鼻先を撫でていた臭いは、少女の纏う清涼な香りへと置き換わっていたことだろう。
「いきましょう」 「すてきな方」
僅かに染み入る手の熱。唇の熱。ヒトの香り。
そうと決まれば、こんな屑溜めなど毛ほども価値は無いというように。にこりと笑い、あなたの導きのままに身を揺らして往くだろう。
夜の色は、地獄の奥底でも艶めかしく煌めくものだ。
⇒*Message
in:廃棄区画
寒々とした路地裏へと続く小道から、一人の少女が姿を現す。
身に纏う高価な衣服は無惨にも大きく裂かれ湿り
その上から、毒々しい緑の映える上着を纏い
乱れた髪を引き摺るように、
暗く汚れた路肩をすり抜け"高き"を目指す。
「......。」
特段、覚えがある者でなかろうと。
その少女が何をされた後かは、一目で分かるもの。
周囲の視線を掻い潜り、歩み続けるその足は早い。
呼び止めたとして、すぐさま駆け出して
どこか別の暗がりへと逃げ潜ることだろう――
in:エンドボード
「つまらない夜なんて無いの。
あるのは長いか短いか、熱いか冷たいか、だけ」
「私も、一人より二人の方が好き」
にい、と笑って。
少女は、握るあなたの手へと僅かに力を入れる。
「好きな場所で良いわ。」 「どこでも。」
in:廃棄区画
「でしょう?」
僅かに見えた指先の揺らぎを、悩ましげな目付きでじっくりと捉える。己の香りに惹かれてくれたか、あるいは逆に気に障り始めたのか。
不徳と悪意の世界に生きる聡いもの者たちは、甘いも苦いも遠回しな言葉遊びで紡ぐばかりだ。だから、あなたの"優しく"整然とした言葉たちにも、少女は不敵な悦び滲ませ続けていた。
「謙虚な人……ふふ、それで十分よ?
人肌より温かい湯、地べたよりマシな寝床、生臭さ以外の味がする食べ物、長すぎるものを整えられる道具……なんて贅沢なのかしら」
往々にして、身なりの良い花売りには相応の後ろ楯があるものだ。しかし、この少女はいかにも身寄りの無い風を言うばかりで、あなたの甘言には素直でない言葉での誘惑を紡ぎ続ける。
あからさまに、少女はあなたとの会話に悦に入っていた。この後に対する期待にも。
「ええ。」
ゆらりと歩み、あなたの眼前へ身を寄せる。差し伸べられた男の手を嬉々として取れば、上目遣いにあなたの片瞳へと蒼い視線を注ぎ込んで、その"情け"へと今一度の誘い気を。
(1/2)
in:廃棄区画
一歩進めが何かの"名残"を踏みしめるゴミ溜めの中で、その薄藍の少女は、ヘラリと不気味や笑みを浮かべていた。
眼前の男からの観察眼に「これもいかが」と言わんばかりのアピールをするかのように。ひらりと揺れるスカートを僅かに揺らして、煌めく金糸を優雅に流して、この場に混ざる清涼な香りはいや増して行く。
「気遣ってくれる?こんな身でも"稼ぎ"が無いと、その日の寝床もなにも作れないもの。運が悪い日はこうするしか無いの――」
一介の探索者であれ、配給所に足を運べば食事にはあり付ける。湯浴みに行けば穢れは落ちるし、就寝施設には丁度ヒト1人を押し込める分の穴蔵が無数に開いている。
だというのに、この少女はこんな所で物乞いの真似事をしている。
まるで、誰かから己の価値を"拾われる"ことを期待するように。
「ふ、ふふ、ええ。探してるわ、色々。
美味しい食事、柔らかい寝床、温かい人肌、優しい言葉、熱っぽい言葉、甘ったるい言葉……私を"買って"くれる人」
大概に気紛れて、少女は歌うように言葉を返す。
相手の事情など知る由は無い、ただ、目の前にいる"宛"に色目を使うような仕草ばかりを並べ立てた。
in:廃棄区画
「あら――」
振り向きざまに見えたのは、至って年相応な幼さを持つ白い顔。少しばかり煤に汚れた頬を不作法に拭えば、声の主へと視線を細め、不敵な笑みを浮かべる。
薄青のドレスはやはり上等な物で、白い艶肌が大きく覗く肩から見える躰付きは、あなたと比べて随分とひ弱そうに見える少女の姿だった。
「ふふ、ふふ、ああ……ごめんなさい。
みっともない所を見せちゃったかしら」
紡がれる言葉は妙に大人びて、しかし、声色だけは少女のそれを持った奇妙なもので。不思議な余裕を持つ表情が、あなたの片瞳へと向けられていた。
「ええ、いま正にその"価値"の代わりを探してたの。
今日はそうしないといけない日だから。」
そう言えば、少女はあなたの背後かその脇――今しがた棄てられたばかりの"それら"へと目線を変えて。
「食べるものが無いと、どの道生きては行けないでしょう?」
そう言って、再びあなたの瞳へと向き直った。
in:廃棄区画
ふわりと、ふわり、と。
汚れに穢れに満ち満ちた楽園の底で、ひどく嗅ぎ慣れない香りがあなたの意識を撫でるだろう。
共に見えるは小さな人影。儚げな色合いを持つドレス、長く端整な薄金髪をたなびかせて揺れ歩き続ける、1人の少女の姿。
「~♪」
一見しただけでも、明らかにこの場に似つかわしくはない上等に過ぎる装い。そんな人影が、あなたの視界の端で小さく揺れているのが見える。
廃棄区画の所々に満ちる鉄と腐れの臭いに混ざるのは、強く清涼感のある香り。その混ざり気は、どうにも気に障るような心地をあなたに与えたかもしれない。
「~♪ 「~♪」
この廃棄区画には、時として、この世の悪辣の全てを秘めたエンドボードの路地裏であったとしても、稀にしか目にすることのできない"例外"が棄てられている。
そんな屑溜めにうず高く積まれた、固さと柔らかさの混合物を前にして。その薄藍の少女はまるで、乞食のような物漁りを続けていた。
in:廃棄区画
儚げな色をした少女が1人。
あやしげな店の前で立ち止まれば、品揃えを見つめる。
如何わしいものが見えても顔色一つ変えやしない。
in:アンダーボード