とある教会のシスター。
とは言ってもまだ見習い。
シスターの割に、言動が無神論者で雑。
どうやら自ら進んでシスターの道を歩んだ訳ではないらしい。
彼女は、如何にしてこの島を望んだか
アタシの願いは・・・
アタシの彼を奪った恋敵の、一族郎党への復讐
アタシの彼を奪った恋敵の、一族郎党への復讐
その人が、アタシの幼馴染で、兄貴分で、恋人だった。
恋人だった・・・って言うのは、少し語弊があるかも知れないけど。
彼って言っても、只の幼馴染で・・・
何の気なしに付き合ってただけなんだけどね。
だけど、アタシは幸せだった。
何の気なしに付き合ってただけなんだけどね。
だけど、アタシは幸せだった。
お前、いつまで経っても甘えんぼだな。
まこ兄ちゃんの事好きだもん!
もう少し周りの目を考えてだな・・・
い、いやっ!だからあんまくっ付くなって!
周りの目が・・・だぁかぁらぁ~っ!
そう。
あの日までは。
でも、後からしゃしゃり出てきたあの女・・・
社長令嬢だか何だか知らないけど、アタシの彼を横から掻っ攫って行ったのよ。
社長令嬢だか何だか知らないけど、アタシの彼を横から掻っ攫って行ったのよ。
嘘だよねまこ兄ちゃん!?
まこ兄ちゃん!!
・・・すまない、浅香。
まこ兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!!
最愛の人を。
この時、失った。
『あなたには跡継ぎになる資格がある』とか何とか難癖を付けて、
あいつは・・・あの女は。
あいつは・・・あの女は。
―――あの顔は忘れもしない―――
人を見下したような目つき。
どこまでも尊大な物言い。
人を食ったような態度。
『全ての男はワタクシに傅くべきなんですのよ』・・・だぁ?
ふざけてるにも程がある。
高校も卒業して、これから専門学校って時に。
あの女・・・
アタシの力が足りなかったのかも知れないけど、それでも彼が好きだった。
でも、あの女と関わってから・・・彼は変わってしまった。
見るからにやつれて、やせ細って・・・
遂には、首を吊ったわ。
落ち着いて、聞いて欲しい。
誠くんが・・・
びしり
、と世界にひびが、入ったようにも感じた。
あの直後から、アタシはどれだけの間
発狂したように叫び続けたのか
それだけは覚えていない。
その後・・・
アタシは泣いたわ。三日三晩泣いた。
でもあの女は・・・それすら意に介した様子も無く!
後から聞いた話だけど、その女・・・
何人もの男を不幸にしたって言う地雷女だったそうよ
アタシはそいつを糾弾しようとした。
でも、ダメだった。
あろう事か、アタシの親にその前に教会へ無理やり預けられてしまったのよ!
オマケに親子の縁まで切られて!
勤め先が、あの女の親が経営する会社だったってだけで・・・っ
だから
アタシは
彼を
まこ兄ちゃんを
死に追いやった
あの一族に
・・・それだけじゃない
アタシを見捨てた
アタシの家族に
復讐を
交流録
13:アキちゃん。舞ちゃんの名コンビ。舞ちゃんを支えてあげてね。
16:舞ちゃん。かなりの人気者。同病相憐れむって言うのかしら、すっかり仲良くなれたわ。
48:ヒルフェ君。・・・独占欲の強さにはビックリしたわ。
49:アンズちゃん。・・・貴女、何でもかんでも抱え込み過ぎよ・・・
73:卓小僧。Fxxkな話に興じてる時にちょいと脅したら、大人しくなってくれた。よーしよし。
79:アサヒ君。舞ちゃんの事、よろしく頼むわね。
81:ももちゃん。47連勤の限界社畜っ子。あのサイズは流石のアタシでも圧倒されたわ。
126:ナカバ。下ネタ小僧。下手な事言ったら、その股座腐れ落とすから。
異能名:J・F・C(ジーザス・ファッキン・クライスト)
一帯を汚染地帯へと変えてしまう、汚泥を発する異能。
而して、汚泥の修道女は帰還せり
・・・・・・
・・・次のニュースです。
若松建設グループ創業者一家変死事件の続報です。
きょう未明、先日亡くなった社長の若松隆三さんの長女、若松玲央奈さん(20)が、
東京都内の路上で死亡しているのを発見されました。
被害者は、猛毒性の泥を全身に浴びており、以前の犯行と手口が似ている事から、
警察は同一犯の可能性と見て調べを進めています・・・
・・・・・・
<とある墓地で>
あの島から帰って来て、2週間が過ぎた。
アタシは、今。
まこ兄ちゃんの墓の前にいる。
目をつむって。
一言も発さずただ。
手を合せている。
まこ兄ちゃん。
アタシ、仇を討ったよ。
これは、アタシの自己満足かも知れないけど。
これで、アタシもまこ兄ちゃんも。
やっとあの女と会社の呪縛から解き放たれるから。
「・・・あ、浅香、ちゃん?」
初老の女性の声。だけど、アタシが聞き覚えのある声だ。
「・・・久しぶり、おばさん」
振り返り、アタシは応える。
おばさん。まこ兄ちゃんのお母さん。
「浅香ちゃん・・・誠の墓参りに、来てくれたのね」
「ええ」
短く、そう答える。
「・・・ごめんなさいね、誠もあんなのに目を付けられなければ・・・
浅香ちゃんと、結ばれたかも知れないのに」
「ううん、おばさんが悪いんじゃないわ。
かと言って、まこ兄ちゃんが悪いわけでもない。
悪いのは、先日ニュースになってたアイツよ。
因果応報、じゃないかしら。
アイツって男を不幸にするって噂だし、どうせ怨みでも買ったんじゃない?」
「・・・そんな酷い女性だったのかしら」
「そうみたい。アタシも話でしか聞いてないけど」
ごめんなさい、おばさん。
嘘をついた。
あの女を殺したのは、アタシだから。
島から持ち帰った異能で汚泥の中に足を滑らせ、じわじわと効いて来る毒で泡を吹きながら痙攣し、もがき苦しみながらも一言も発せずに血を吐き、そしてアイツは事切れた。
呆気無い。
こんなのが、アタシの憎悪の対象だったのか。
それが、アタシの感想だった。
「・・・おばさん」
「・・・? どうしたの浅香ちゃん」
「アタシ、ここを出ようと思うの」
「・・・そう」
おばさんは、何処か寂しそうだけど。
でもどこか、ホッとしたようでもあった。
「・・・浅香ちゃんがここを離れるのは、確かに寂しいわね。
でも・・・私は、いつまでも貴女が誠の事に縛られているのも良くはないと思うわ。
浅香ちゃんも・・・もう、誠の事は忘れて暮らすべきなのよね」
「・・・おばさん、アタシ・・・
まこ兄ちゃんの事を忘れるつもりは無いわ。
でも、まこ兄ちゃんにずっと引きずられるわけじゃない。
まこ兄ちゃんとの思い出は胸に抱えて、一緒に持って行くわ」
「浅香ちゃん・・・
・・・そうね、それなら誠も喜ぶわ」
おばさんの頬を、涙が伝う。
でもどこか、憑き物が落ちたような顔でもあった。
おばさんも、どこかでまこ兄ちゃんの事を引きずってたのかも知れない。
「浅香ちゃんも、強く生きてくのよ。
お父さんもお母さんも・・・交通事故に巻き込まれて、亡くなっちゃったけど」
「・・・うん。
アタシは行けなくて、死に目には会えなかった。
でも、心配しないで。アタシだって、もう19なんだから。
自分の事は、自分で決めるわ」
これは本当だ。
アタシが島でサバイバルしている間に、夫婦揃って逆走車が絡む交通事故に巻き込まれ、主の御許へと旅立ったらしい。
残念と思う反面、何処かホッとしている自分がいる。
肉親に手を下すのは、やっぱり良い気はしないのかもね・・・
<教会で>
「・・・神父様・・・」
「・・・永森さん」
神父さんの執務室に、アタシは立っている。
神父さんは、書類と向き合っている。
「私は、両親の死と向き合う事が出来なかった、愚か者です・・・」
「永森さん、自身を卑下する事はありません」
神父さんは、優しく諭す。
「永森さん、貴方は自らの意思ではなく、御両親の意向で以てこの教会にやって来ました。
ですが、貴方はもう御両親の軛に縛られる事は無くなったのです」
「・・・神父様、それは・・・つまり」
「はい。これから貴方は、自らの意思で生き、自らの足で以て歩むべきなのです。
私が教えを説く時間は、もう終わりました」
つまり、破門を言い渡されたのだ。
アタシは、シスターではなくなった。
「永森さん・・・
人には、必ず試練の時が訪れるはずです。
ですが貴方は、先の行方不明となった間に多くの事を学んできたようだ。
それは、私には計り知れない濃密な体験である事でしょう。
であれば、その経験を決して忘れる事無く・・・歩み続けなさい」
「神父様・・・・・・はい!」
アタシは、大きく頷いた。
破門を言い渡す事で、アタシを再び広い世界へと返すと言う事だった。
何も話さなくても、多分神父さんは送り出してくれるのだろう。
「お世話に、なりました」
「はい。
では永森さん、最後の挨拶を致しましょう」
「はい」
互いに、十字を切る。
「父と精霊と子の御名に於いて」
『Amen』
<そして、車中で>
アタシは今。
新幹線の席に座っている。
家も引き払い、家財も引き取ってもらって。
片付かないものは、片っ端からフリマとかで売っ払った。
アタシが見繕った最低限の荷物だけで、今ここにいる。
荷棚には、大きなトランクが1つ。
着替えだけでも意外と嵩張ってしまった。
早いトコ舞ちゃんに連絡を取らないと、宿に滞在しているだけで足が出てしまう。
そんなこんなで色々とこの先の勘定を始めたが、十秒足らずでやめた。
頭がこんがらがってしまう。
異能についてだが。
十分コントロール出来るようになって、漏らす事も無くなった。
とは言え、トイレの頻度は上がったけど。
流れたものは、もう正直浄水場の浄化力に頼るしかない。
謂わば今のアタシは、本当の意味での自由だ。
これから先の人生は、アタシ自身で決めるんだ。
そう言う意味であの島での経験は、少なからずアタシの骨子になって行くだろう。
大阪に着くまで、あと3時間半。
今、小田原につく頃だ。
指定席を安く買えるプランを探してみたけど、結局こだましか無くて今に至る。
周りを見渡してみても、アタシの他に同じ号車の乗客はいない。
とは言え、せっかくの指定席だ。
どうせ最後までアタシしかいないだろう。
それなら、一眠りしよう。
新たな未来を信じ、今ひとときの微睡みに。
アタシは、その身を委ねた。
PL向け:ログ公開、エログロ、3Lでも何でもOK。