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No.231 柄々内 誠
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age:32
sex:男
height:170cm
weight:57kg
Trend:攻撃してくるなら
Favorite:価値の[ある|ない]もの
Hate:[他人|自分]
Comment
「この先」があるなら
【Battle_Log】
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医療機器が俺の心音をカウントする音の中俺は生きているうちに一度ルーブル美術館に行こうと思った。どういう誤解(意図?)が生じたか、ビル管理会社から老朽化したフェンス放置の謝罪と幾許かの金銭を得た俺は退院と同時にパスポートを入手した。久々に髪を切り、黒ではない新しい服を買った。初めて乗る飛行機。初めての国境越え。テレビや教科書で飽きるほど見たガラスのピラミッド。誰とも知らぬ肖像画は万人を等しく高みから見下ろしているものと思っていた。ふとどことも知らぬ場所でひととき出会った少女の輪郭を想起した。キャンバスの上で不思議な微笑を湛えるその目は俺ひとりを見つめていた。

しがみ付いた屋上のフェンスの金網が情けない位にガシャガシャ音を立てる中俺は死ぬ前に一度ルーブル美術館に行ってみたいと思った。俺は価値のないものが好きだ。少なくとも俺と同格あわよくば俺よりも役に立たないものに囲まれていれば俺にも多少の存在意義はあるのではという薄い希望が見える気がする。俺は価値のあるものが好きだ。塗料の塗りたくられた布切れ形を与えられただけの石くれそんなどうでもいいものが尊ばれ周りの有象無象を蹴落とし何億単位の値段を以て上位に立つ様を見て結局周りに群がる奴らも俺と同等でしかないと安堵する。俺は俺を最も嫌悪する。だが嫌悪しつつもそれを捨てられない俺はどうすればいい誰に何に縋ればいい?この世界の全てがクソだ。クソが。クソどもが。違う。俺が。俺だけが。同じバイトの奴が死んだ。従業者の誰もが互いに無関心な職場で俺に話しかけてくるようなのはそいつしかいなかった。話してみればそいつも俺と同じようなクズ野郎。たまに話す事はあっても親しい程ではなかったが、俺は上長の指名で取り急ぎ店で一番安い黒の上下とネクタイを買う羽目になった。ぺらっぺらの香典袋にボールペンで書いた名前。記帳では何度も記入を間違え書き損じで真っ黒な俺の文字と俺の顔とを見比べられた。式場は思った以上に人がひしめいていた。誰もが奴の事を話していた。誰もが奴の喪失を嘆いていた。俺はこの場にいられない。俺はただ一人だった。俺は俺の死を思った。俺の棺桶の横たわる広い会場、そこに来る人間を思った。俺は一人だった。俺は思っていた。彼奴も俺と同じ。自分と俺を比較して「どっちがマシか」を量っていたのだろうと。彼奴はやたらとスマホの動画を押しつけてきた。炎上系配信者、本人の言動もコメントも最低最悪。彼奴はこの女とも自分を比較して己を少しでも上に見せようとしているに違いない。俺に「お前の方がマシ」と言わせようとしているはずだ。本当に?彼奴は俺に少しでもそんな素振りを見せたことがあっただろうか?彼奴はこの女の何を見ていた?彼奴は俺の何を見ていた?俺は彼奴の何を見ていた?半歩も後退すればもう下には何もない。身体を辛うじて縫い留めている手はガチガチに固まって動かないと言うのに酷く震えて俺を振り落とそうとする。針金の擦れる音を聞きながら俺は死ぬ前に一度ルーブル美術館に行ってみたいと思った。ただ一つ高く高く光り輝くガラクタの下で有象無象の価値は誤差の範囲だ。あなたにとって大切なのは、どれ?そのどれもに俺は焼かれる。俺は凍える。俺は打たれる。俺は慟哭する。大切なものはどれ。大切なものなどあるものか。だがそれだけが俺を動かしている。それが最後の最後で俺の手を離させた記憶だけがある。





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